ブランディング・プレゼンの極意 ~魅せるプレゼンテーションを “デザイン”する~

ダボス会議やオリンピック招致イベントのようなグローバルで実施される大規模プレゼンテーションの「場」のみならず、起業家がビジネスコンテストに参加するケースや、上場企業のCEOが投資家向け説明会を行うケースなど、経営者が高いパフォーマンスを期待されるプレゼンの機会は、近年、急速に増えつつある。


プレゼンの質の善し悪しは、資金調達の金額や株式市場における株式価値に大きく影響を与えることもあり、経営者にとってのプレゼンスキルは、いまや経営者の資質の中の重要な一要素を担っている。


本稿では、主にそうした表舞台で活躍する国内外の経営者向けにプレゼンテーションのノウハウや資料を提供しているプロフェッショナル集団「KUROKOTM」の経験値の中から、魅せるプレゼンテーションのデザインはいかに創るべきかについて考察したい。


オーディエンス(聴衆)は何を求めているのか
プロダクト・デザインの世界において、デザインレベルの極めて高い商品が、必ずしも売れ行きがよいわけではないのと同様に、プレゼンの世界も、狭義の意味での“デザイン”をいかに美しく仕立てたところで、心を動かすプレゼンに仕上がることはない。


プレゼンという「場」に、オーディエンスは一体何を求めているのだろうか。プレゼンターは自らのプレゼンをどのように“デザイン”すれば、会場にいる多くの人々の心を捉えることができるのか、改めて考える必要がある。


カリスマ経営者のプレゼンに魅了される聴衆たち
成功するプレゼンの喩え話として、スティーブ・ジョブズや孫正義の名前がしばしば登場するが、なぜ彼らのプレゼンは人々から注目を集め、オーディエンスの心を動かし、消費者の“購買”をも促すことができるのか。はたして、一般の企業経営者も、ジョブズや孫のようなプレゼンを行うことは可能なのだろうか。


プレゼンの専門家の立場からコメントさせて頂くと、「情熱(パッション)」と「お金」と「時間」、この三つさえ準備できれば、十分に同等レベルにまでプレゼンの技術を引き上げることは可能だ。(無論、その会社が生み出している商品・サービス自体がそれなりの魅力をもっているという前提での話ではある。)


プレゼン準備に巻き込むべき3人の専門家
常に聴衆を魅了しているプレゼン界のカリスマ達は、そのほんの一瞬の製品説明会や記者会見のために、我々が思っている以上に膨大な「お金」と「時間」を投じていることはあまり世に知られていない。

プレゼンが生まれながらに上手な経営者はごく稀で、実はカリスマ経営者に限らず、芸能人や大統領などの表舞台で輝いている著名人の多くは、自らのプレゼンスを上げるため、外部の専門家を活用して徹底して訓練している。


刺さるストーリーを創るために、プレゼンでの立ち振る舞いを完璧にこなすために、巻き込むべき参謀は3人の専門家である。
(重要なプレゼンに活用すべき外部専門家)

1.プレゼン資料のシナリオライター・デザイナー
2.パフォーマンスの指導者
3.衣装コーディネーター


日本では少ないのかもしれないが、グローバルで活躍する著名人は、これらの3人の参謀をプレゼンに巻き込んで、何ヶ月も前から本番に向けて準備をしている。ジョブズに至っては、プレゼン資料の内容を何週間も前に確定させ、発表当日に最高のテンションで望めるように、一切怠らずにプレゼンの練習をしてきたと言われている。


プレゼンの場は投資対効果が極めて高い
上述の通り、その場に居合わせているオーディエンス側にはなかなか分からないが、優れたプレゼンというものは、プレゼンターによる膨大な準備期間によって成り立っている。加えて、一回のイベントでプレゼンターの時間単価と外注費を踏まえると、膨大な費用を要していることも容易に推察される。


たかが数分のプレゼンに、果たしてそこまでやる必要があるのだろうかと感じられる方もいると思うが、少なくとも二人のカリスマ経営者が、時間と投下資金の費用対効果をまともに計算できない経営者でないことは重要な事実だ。


巨額な予算を投下したテレビCMと同等か、もしくはそれ以上に、ライブの会場で、その場に集う人たちに対して直接語りかけるプレゼンは、成功すればそれだけ大きなリターンが生まれる「場」なのである。


プレゼンの成否を握る5つのポイント
プレゼンを経験したことがある方なら一度は「今日のプレゼンは比較的よかった。」「今回、ここミスってしまったな。」など、プレゼン後に一喜一憂したことがあると思うが、なぜ成功したのか、なぜ失敗したのかをもう少し深堀してみると、非常にシンプルな要点にたどり着くことができる。


当社ではプレゼンの成否の決定要素を、以下の5つのポイントに分解している。
(プレゼンの成功に不可欠な5つのポイント)

1.プレゼンにかけるエネルギー(熱量)が圧倒的であること。
2.取り上げる題材に魅力(コンテンツ力)があること。
3.プレゼンのストーリー構成がシンプルで分かりやすいこと。
4.スピーカー本人が魅力度(声・表情・風貌)をもっていること。
5.プレゼン資料のデザインが綺麗であること。


上記5つのポイントをバランスよく網羅しているプレゼンの成功確率は高いし、どれか一つでも評価が低い項目があれば、総合評価は大きく下がってしまう。逆に言えば、プレゼンの成功を切望するプレゼンターにとっては、これらのポイントを意識してプレゼン準備をすることが重要となる。


日本人の多くは表舞台での立ち振る舞いが苦手と言われるが、その場合には、5つ目の項目の資料デザインを強化することで全体評価のポイントを補うことも可能となるのだ。次に資料作成における狭義の“デザイン”レベルは、どうすれば高められるのかについて説明したいと思う。


ビジュアライゼーション(視覚化)のテクニック
当社では、プレゼンで勝つための7つの独自メソッドをもっているが、そのすべてを解説すると枚挙にいとまがないため、その中でも一番導入が簡単な手法を最後に紹介したい。それはプレゼン資料の中にピクトグラム、インフォグラフィック的要素を盛り込むことだ。


専門用語なので少しだけ補足すると、皆さんが手元でよく触っているスマートフォン上のアプリやWebサイトのボタンは、ピクトデザインが活用されていることが多い。


つまり、「ホーム」画面に戻りたい時、ユーザーはピクト化された「家」の絵で表現されたマークを直観的に押させられている。また、近年政府から発表されている統計データなども綺麗に視覚化され、ユーザーが直観的に理解しやすい情報形態に整理されているものが増えてきている。


それがインフォグラフィックと呼ばれる手法である。以下のサンプルを見て頂ければわかるが、これまで文字が中心だったプレゼン資料に少しだけ、これらのビジュアライゼーションの要素を加えることで、視覚的に伝えられる情報量が高まり、結果として、聴衆に対して瞬時により分かりやすく情報を伝えていくことが可能となる。


ブランディング・プレゼンとは
最後に、「プレゼンテーションは、ブランディングである。」という概念を伝えたい。デザインの本質は、“無駄なものを徹底的にそぎ落とす”ことにあると思うが、実はプレゼンテーションの資料を纏めていく(そぎ落としていく)プロセスには、サービスや企業のブランドあるいは戦略をシンプルにする工程が含まれる。


プレゼンテーション資料を創る過程で、「このサービスの強みは一体何なのか。」「当社は社会に何を与えている存在なのか。」、企業やブランドに真剣に向き合いシンプルにまとめていくそのプロセス自体が、ブランディングの構築そのものであるといっても過言ではない。


したがって、プレゼンターは、プレゼンの機会を単にサービスの説明の場や作られた原稿をそのまま読み上げる場にしてしまわないように、その一つひとつの準備プロセスが企業や商品/サービスのブランディングであるという意識を持って、“デザイン”を創っていかねばならない。


その意識の持ち方一つで、よりよいコンテンツが生まれ、世の中に広める価値のある意義深いプレゼンが実現できるのではないだろうか。

 

泉  健太  (いずみ  けんた)
リライアンス・グループ  代表
デザイン思考経営者。
2003年3 月、慶應義塾大学総合政策学部(SFC)卒業後、大和証券SMBC株式会社入社。
同社及び米Citigroup Inc.においてIPO、資金調達、M&A業務に従事。
2010年9月、㈱フルスピード(東証マザーズ上場)の企業再生人としてCFOに就任し、同社の副社長(COO兼CMO)を経て、2014年、リライアンス・グループを創業。
現在、複数の成長企業の社外取締役及び顧問に就任しつつ、高品質プレゼン資料作成のKUROKOTM PPTを提供開始。
専門分野は、競争戦略、ブランディング、空間デザイン、IR、企業再生、M&A。
世界最大のスタートアップ・アクセラレータ組織のFounder Instituteの国内メンターの一人。
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