Diversity! It's everything.

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2018年2月号『ダイバーシティを企業力にする』に記載された内容です。)

2004年に小泉政権の肝いりで導入された構造特区制度で誕生した株式会社立の大学院大学として開学したのがデジタルハリウッド大学院大学である。設置会社であるデジタルハリウッド株式会社は、翌年に大学も開学し、他にデジタル系専門スクールやフランチャイズスクールとして日本に8ヵ所、タイなど海外にも専門スクール3校を展開している。

海外からの留学生は全体の1/4程度で、中国、韓国、インドネシア、ベトナム等のアジアに留まらず、カナダ、アメリカ、コロンビア、コスタリカ等の北・南米、ドイツ、フランス等のヨーロッパからトルコ、カザフスタンの中央アジア、そしてチュニジア等のアフリカからも。これまで学部で32ヵ国、大学院で19ヵ国の国や地域等、文字通り世界中から留学生が来ている。


彼らの留学目的は、アニメやGAMEなどの日本のコンテンツ制作スキル取得やデジタル・コミュニケーションに関わるビジネス構築の為だ。大学においてはクリエイター志向、大学院は専門職大学院としてビジネス・プロデューサー志向の学生が多い。


学長の杉山知之が掲げるメッセージは、「Entertainment! It's everything.」(すべてをエンターテイメントせよ!)およそ普通の大学の教育目標とはかけ離れているものだ。2020年へと掲げた中期計画では、2020年までに、日本人50%、外国人50%の構成を目指すという。


なぜ、そんなに外国人を集めようとしているのか?それは単に中国人の留学生を確保しようという営業戦略上の目標ではなく、本気でダイバーシティを志向しているからである。逆に言えば、デジタル技術が進化し世界中が素早くつながっていくこれからの時代に通用するのは多様な個であり、その意味を多様な人間の集まりの中で習得してもらうことが大学等高度教育には必須なのではないかという考えである。


社会にAIが浸透しテクノロジーがもっと世界中に拡がった未来には、日本だアメリカだと言っていられない。間違いなく世界ということが一つの単位となる。その世界には無数の民族や人種が存在し、多様な文化を育んでいる。しかし、エンターテイメントを横串にしてみると、世界はひとつでありネットは理論的に国境を超えていく。


通常の学校法人による大学運営ではなく設立された大学・大学院であるその存在こそが教育におけるダイバーシティ志向の現れであり、それは国が施行したもの。デジタルハリウッド大学・大学院は、スタートからしてそもそもダイバーシティであったと言える。


それらの中から様々な成果が生まれてきている。米国ハリウッドで活躍するスタッフと制作したTOYOTAの五輪向け広告で話題となっている藤井翔(大学院)、母国ネパールの歴史をアニメというわかりやすい形で国内に流布しようとしている母国のエンターテイメント業界の台風の目、エルファンヤルマイマイト(大学院)。東京国際プロジェクションマッピングアワードで最優秀賞を受賞した松本豊、三代飛翔、小林大和の大学生トリオ、等々。


彼らを筆頭に、スクールを含めると世界のデジタル・エンタテインメント業界に4万人を輩出し、中にはCGエンジニア等で本場ハリウッドの大作にもクレジットされている者も多い。


それらダイバーシティが生む自由闊達な刺激の中で、経済産業省が実施した「平成28年度大学発ベンチャー調査」のベンチャー創出数結果では、全大学中第10位、私大では早稲田大学に次ぐ第2位を獲得している。


2016年から始まった「日本IPグローバルチャレンジ・プログラム」では、日本の埋もれている小説や漫画等を発掘し、海外の有力なコンテンツ・メディア業界に原作として提案するという実践的なカリキュラムを実施中だが、それが成立するのも様々な国からの留学生がいるからこそという。徳間書店の協力で開始した授業と倶楽部の中間のようなまさにダイバーシティ的なこの活動は、英語、スペイン語、中国語の話者がいるからこそ可能となり、プロでも難しいあらすじの現地語化に、大学1年生の留学生までもがチャレンジしているという。


2018年度の新入生募集キャンペーンのメインコピーは、「みんなを生きるな。自分を生きよう。」そのコピーでメッセージされることは、自分を大切に自分の可能性を信じようというもので、まさにダイバーシティ教育の究極の目標ともいえる。


このように、デジタルハリウッド大学・大学院は、ダイバーシティの環境を自ら作り出し、それを強みとして新たな教育の可能性を追求している。アニメやゲームといったこれまで日本の強みとして世界が注目していたメディア・コンテンツ分野という特殊な領域が中心ではあるものの、そのコアな発信力を求心力として世界中から学生を集め、単に日本に取り込むだけでなく、まさにグローバルな市場を見据えて、世界の中の自分を日本人のみならず留学生にも意識させている。


それは現在の多くの日本企業の在り方の先にあるもの、単に日本の技術をもって世界に進出するということではなく、日本は世界の一員であり、世界の中で自分たちの存在を確認するという意識の必然性を暗示させる。デジタルハリウッド大学・大学院が教育の分野で行っているこの取り組みこそが、自己実現のマーケティング4.0の時代に向けて、これからの日本企業、業界、個人に求められるダイバーシティの在り方なのではないだろうか。


毎年行われるデジタルハリウッド大学及び大学院の入学式では、設置会社社長の吉村毅が、英語、中国語、韓国語、そして日本語で祝辞を述べるのが好例である。

 

 

吉田  就彦   (よしだ  なりひこ)
デジタルハリウッド大学大学院 教授
㈱ヒットコンテンツ研究所代表取締役社長。自ら「チェッカーズ」「だんご3兄弟」などのヒット作りに関わり、ネットベンチャー経営者を経て現職。「ヒット学」を提唱しヒットの研究を行っている。木の文化がこれからの日本の再生には必要との観点から、「一般社団法人木暮人倶楽部」の理事長にも就任。現在は、ASEAN各国にHeroを誕生させる「ワールドミライガープロジェクト」に没頭中。著書に「ヒット学~コンテンツ・ビジネスに学ぶ6つのヒット法則」、共著で「大ヒットの方程式~ソーシャルメディアのクチコミ効果を数式化する」などがある。

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