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最貧国にゼロから最先端の街をデザインする

初めまして、カンボジアでvKiriromという自然融合型リゾート学園都市を経営している猪塚と申します。 このプロジェクトは2011年にスタートした民間による「最貧国にゼロから最先端の街をデザインする」という野心的な試みで、カンボジア政府の全面バックアップで進められています。最近はやりのIoT的に言えば(Internet of Town)かもしれません。今回は土着力というテーマで私の経験をお話しさせていただきます。

オーナー経営者による意思決定
先進国と発展途上国のビジネスの状況を考えたときの大きな違いは意思決定者です。日本と違って発展途上国ではオーナー経営者が経営権を持っていることがほとんどです。人口ベースでアジアの95%以上の国で相続税がないので会社の経営権はそのまま息子や娘に引き継がれることを前提に意思決定は行われます。

 

企業の大小に関わらず成長企業のオーナー経営者のメンタリティーは共通ですので国境を越えて比較的簡単に仲良くなることができます。私がこのことを理解したのは世界最大の起業家組織EOのアジアの理事を経験したことによります。ダボス会議の東アジア会議にも参加してみましたが、起業家にとってはEOの方が会社の肩書きを越えて家族で友達になれるのでとても快適で有益です。

 

日本でもEOの文化は世界共通で、今年も多くの起業が株式公開を果たしました。世界が大変革期にあることが世界的にEOの拡大の追い風になっており、現在は会員数11,000人で会員が所有する会社の総売上はGDP世界23位に相当します。世界中で起業家をもてはやす風潮がありますが、変化の時代は起業家の時代なのです。


ジョブローテーション制度の弊害と英語力
会社の信用を正しく判断する方法がない多くの海外では取引をするかどうかは相手を信用できるかどうかです。信用するまでには何年もの時間モニターしたり、ネットワークからリファレンスを取ったりすることもあるでしょう。日本のジョブローテーション制度は不正防止や従業員のモチベーション向上には良いのかもしれませんが、オーナー経営者が経営する企業とのパートナーシップという観点では相性があまり良くないと思います。

 

また私はカンボジアでITの大学を経営していますが、私のところに遊びに来る日本からのお客様よりも私の大学の2年生の方が英語ができます。(カンボジアの平均英語力は世界最低レベルです。)コミュニケーションは現地の母国語が望ましいですが、カンボジアのように人口が小さい国や英語が母国語の国の場合は英語のコミュニケーションができることが必須です。


この「英語のできる人」という基準が日本はとても低いと思います。これは英語の先生も含めてみんなが英語ができないので相対的に下がってしまったんだと思います。私も英語に苦労しましたが日本人が英語ができない理由は圧倒的に英語の勉強時間が少ないからだという結論に達しました。普通にインターナショナルスクールに通えば日本人なら誰でもペラペラになります。私の子供たちも問題ありません。私の大学では今後日本人の学生を受け入れることも検討中です。



海外の日本人ネットワーク
日本人会と日本人商工会という日本人の集まりが海外にありますが、この組織は大企業の海外駐在員とその家族をサポートするためにできた組織です。日本人は日本人ばかりで集まっているというイメージはこの2つの組織から来ると思います。そしてこの2つの組織は我々のような日本人起業家にとっては決して快適な組織ではありません。


日本人商工会に入会することは、カンボジア在住で日本に本社がない私にとってはとても大変でした。華僑や印僑にならって和僑のネットワークは有用だと感じていますので、現在ASEAN在住の日本人起業家のネットワーク作りを進めています。このネットワークは日本人にとってはEOのネットワークを補完するものになると思います。


海外展開の方法
私のカンボジアでの事業が軌道に乗った理由は3つあり、1つ目が現地パートナーの大切さ、2つ目が外資規制がなかったこと、3つ目が競争環境です。私はEOのアジアの理事だったことで日本人ネットワークに頼らず現地のパートナーを見つけることができました。また、私の場合最初の会社を日本で売却したので日本に従業員を抱えることなく海外に事業を作ることができたこと、2006年から6年間の海外事業の経験で日本で持っていた常識をリセットしていったことも大きかったと思います。例えば、コアコンピタンシーに集中するというデフレの国では主流の考え方が新興国ではナンセンスだということ、日本の大企業の優先順位が一番低いカンボジアでカンボジア人では難しい事業をやるとういうことなどが一例です。


カンボジアは人口1500万人の小国で1人辺りGDPも1000ドルしかありません。日本の30分の1のGDPであるだけでなくそのほとんどは衣食住のようなベーシックサービスに費やされるので可処分所得の市場がありません。なのでカンボジアの内需をあてにした企業にカンボジア進出をお勧めする気にはなれませんが、輸出産業にとってはとても良い国だと思います。私の会社はカンボジア人向けのリゾートと教育なので内需に見えますが、リゾートは外貨を獲得する能力がありますし、大学は日本企業からのスポンサーシップで成立しています。

 

EOネットワークでカンボジアに来ましたが、カンボジアにはまだEOはありません。EOがない国にビジネスチャンスがあるという視点に立てば、30代の若者には是非アフリカを目指してもらいたいと思います。



日本へのメッセージ
私が事業をはじめた2011年ごろは1ドル80円のころで日本の先行きも産業の六重苦で暗かったです。今は安倍政権で明るくなり、後は民間が頑張るだけです。カンボジアの事業に興味を持つ人がとても減ってしまって残念ですが日本企業が強くないと我々の立場が弱くなるので安倍政権には是非今後も頑張って欲しいです!我々の大学では10倍以上の競争率を乗り越えた大学生に全寮制でITや経営を教えています。世界で戦う日本企業には我々の大学から優秀なカンボジア人エリート人材を提供しますので是非ご連絡ください!

 

 

猪塚  武   (いづか  たけし)
A2A Town (Cambodia) Co., Ltd. President
1967年香川県出身。早稲田大学理工学部物理学科、東京工業大学で地球物理学の修士課程を修了。Andersen Consulting(アクセンチュア)を経て、政治家を志すが落選。1998年に株式会社デジタルフォレストを設立し日本No.1(2006年)のアクセス解析ソフトの会社になる。2009年にNTT Communication社に事業売却。2010年よりシンガポールにて第二の起業を志す。現在は高原リゾート、大学、産業クラスターを含む「リゾート学園都市 vKirirom」 を2011年より経営する。世界的な起業家組織EO(Entrepreneurs' Organization)の日本支部会長、アジアの理事を務め、世界的な起業家人脈を持つ。KAGAWAアンバサダー。
vKirirom PIne Resort  http://www.vkirirom.com

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