中国の外食市場における人材マネジメントの要締

私の中国上海との関わりは、以前東京で手がけた企業再生案件である。上海で100店舗規模を展開する飲食チェーンの日本ライセンシー企業の再生社長を約3年半務めた。その間に出張ベースで約10回上海を訪れ、かの地の「成長性」と「収益性」に魅了されて上海でビジネスをすることを決めた。

その時、日本の飲食店がアジアの中では最も進んでいると感じ、「タイムマシン経営」ができるかもしれないと考えたのだ。そして、2012年1月から単身上海に渡り、資金調達、会社設立、物件探し、取引先探しなどを行い、2012年12月に日本料理店「kemuri上海」を開店した。


開店から1年半は、経営者である私が店長と料理長も兼務した。日本から連れてきたメンバーを店長や料理長にすることは、最初から全く考えていなかった(開店時に日本からキッチンスタッフを3週間「技術指導」にのみ呼ぶ予定だったが、実現しなかった)。1年半上海で店長を務めながら、勤務実績を見て中国人社員の中から店長や料理長を選び出した。中国人店長と料理長は、いずれも上海で飲食ビジネスを手掛ける人たちからの紹介で採用に至った。他の一般従業員も全て紹介であり、お金をかけての求人活動はこれまで行っていない。


私が中国人従業員を評価すると同時に、中国人従業員たちも私を評価している。「この会社(お店)の将来性は?」「この経営者に付いて行って大丈夫なのか?」「ここで稼げるかな?」などなど。この辺の評価については日本人よりもはるかにドライに考えていると思う(上海の飲食店の現場従業員の多くは、地方からの「出稼ぎ」なので、日本人では想像できないレベルで「仕事を決める上で、給与についての優先順位が高い」)。


中国人従業員が日本人上司を見る(評価する)場合、以下のようなことを見ていると考える。これらを大きく外すと、中国人マネジメントで苦労する可能性が高い。ひいては、中国ビジネスや自分のキャリア形成で躓くことになる場合がある。


 ①言語(中国語)を習得する姿勢はあるか?
 ②能力(業務知識や執行能力)はあるか?
 ③人間性に問題はないか?
 ④権限を持っているか?
 ⑤給与交渉はどうやってやったら効果的か?
 順に掘り下げて見てみよう。

①言語(中国語)を習得する姿勢はあるか?
 常に通訳を介し、日本語のみで話す日本人マネジメントがいる。下手でも構わないので、カタコトの中国語で挨拶をし、中国語を学ぶ姿勢は凄く大切だ。中国語が上手いか下手かよりも(もちろん上手い方がいい)、姿勢があるか無いかがまずは大事。中国語を全く話そうとしない上司は、「いずれ帰るから、一時的な仕事」と見られ、真剣さが伝わってこないかもしれない。

②能力(業務知識や執行能力)はあるか?
 飲食店の店長を例に考えた場合、接客サービスや商品知識で卓越したものを持っていて、どんどん仕事を進めるスタイルの人は、中国人従業員からも一目置かれ、良いチームが出来る可能性が高い。逆に、業務知識と執行能力に欠けるのに、日本人という理由だけでマネジメントに任命され苦悩している方もよく見かける。マネジメント経験やトレーニングなしでマネジャーが務まるほど甘い市場ではない。

③人間性に問題はないか?
 国籍に関係なく、どこの国でも、怠ける人は怠けるし、卑怯な人は卑怯である。中国でも、お互いにこの辺の所はしっかり見ている。理由は分からないが、「日本人が上、中国人が下」というような態度の日本人の方もたまにいる。当然ながら周りからは避けられ、チームに溶け込めない。

④権限を持っているか?
店長や総経理(現地法人社長)に権限を委譲していないと、マネジメントがワークしないことが多々ある。一例を出すが、日本法人の取締役が現地子会社の社長(総経理)を務め、現場に毎日のように顔を出しながら懸命にマネジメントを行っている。そこへ、日本から代表取締役が出張で来て、「みんなお疲れさま、私が彼の上司です。◯◯はこう変えてほしい」などと言ったりする。

そうすると、現場従業員は「総経理(ボス)でなく、この大ボス(日本の代表取締役)の言うことを聞いた方がいいのかな?」という感情が芽生える場合もある。これでは、総経理としてはマネジメントがやりにくくなる。海外子会社は当然気になるだろうし、ちょくちょく顔を出すべきかもしれないが、こっそり来てこっそり帰り、総経理のみにフィードバックするのが賢いやり方と言えるだろう。

ところで、権限委譲は大切であるが、「属人的にならない仕組み」「不正をやりにくい仕組み」を作ることも大切である。

⑤給与交渉はどうやってやったら効果的か?
従業員の退社があって人数が足りない状況において、昇給交渉がよく発生する。「私の給与を○○に上げてください。上げてくれないと辞めます」と。その時、どういう反応をするかは他の従業員にも影響を与える。中国では、従業員の給与は、ほぼ筒抜けと考えるべきである(お互いに給与を開示しあうので)。業績が上がった時や昇格とセットにして昇給する仕組み作りが大切である。

上記①~⑤は、実際に自分が現地に住んで、現場に張り付いて気付いたことが殆どである。出張ベースではなかなか見えて来ないかもしれない。

私の中国語レベルは、まだ日常会話に毛が生えた程度だが、約2年間週3回大学に通って中国語を勉強した。言語を学ぶことは、その国の歴史・文化・習慣を学ぶことに通じ、中国ビジネスの成功確率を高めると考える。グローバリゼーションの第一歩は、現地に住んで言語を学ぶことと考える。

 

岡田  博紀   (おかだ  ひろき)
上海烟美餐飲管理有限公司(上海法人)董事長&総経理、エンレスト株式会社(日本法人)代表取締役
1973年生まれ。早稲田大学卒業、ジャフコや三菱商事でベンチャー企業向け投資などを経て、30歳で起業。日本料理店「kemuri神楽坂」初代店長。2012年1月から中国上海在住。上海にて資金調達・現地法人を起業し、日本料理店「kemuri上海」を立ち上げる。著書に「ビジネスで大切なことはみんなレストランで教わった」(大和書房)。2015年8月、東京銀座にインバウンド向け日本料理店「銀座shogun」をオープン。

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