「お爺ちゃん、出番ですよ!」

3世代キャンプ 3世代キャンプ 富良野自然塾

“あの頃”の森や川や海には子どもたちの声が溢れていた。子どもたちは森で木の実やキノコを採り、川や海で泳ぎ魚を捕った。

テレビも、ゲームも、スマホもない時代の子どもたちにとって森や川や海は唯一の遊園地。最高に楽しい遊園地だった。今から60年ほど前のことだ。


その頃から日本では高度成長期が始まった。人々は自然豊かな故郷を捨てて都会に出て便利快適な生活を始めた。核家族化が進んで親と子は都会に住み、田舎にはお爺ちゃんとお婆ちゃんが取り残されていった。
今、日本中のどこの田舎に行っても子どもの声が聞こえてこない。取り残されたお爺ちゃんとお婆ちゃんが主たる村人。気味の悪いほどの静けさ。それが今の田舎の光景だ。


「地方創生」だの「地方の活性化」だのと掛け声だけは聞こえるが田舎では次世代を担う若者や子どもが激減している。都会で暮らす子どもたちは森にも川にも海にもめったに行かなくなった。行ったとしても自然は大人の観光客と同じように眺める対象、風景になってしまっている。


家族が自然の中に行かなくなっただけではない。学校も子どもたちを自然に連れて出ようとしなくなった。「安心、安全」を金科玉条としている学校は、何かがあった時の責任を問われることを恐れて、子どもたちを危ないところに連れて行こうとしない。
ある小学校の先生からこんな話を聞いた。


先生たちが夏休みの「臨海学校」を復活させて子どもたちを海に連れて行こうと企画し、父兄説明会を開いた。そこに集まった母親たちから次々と質問が出された。
「海にはクラゲがいませんか?」
「多分いると思いますが行ってみないと分かりません。」
「クラゲに毒性の強いクラゲがいると聞きましたが、学校はクラゲに刺されないような対策を講じていらっしゃいますか?」
「・・・・」


別の学校は山に子どもたちを連れていく「林間学校」をやろうとして説明会を開いた。
「山にはハチはいないでしょうか?」
「行ってみなければ分かりません」
「そんな無責任なことでよろしいのでしょうか?ハチにはスズメバチという命にかかわる危険なハチもいると聞きましたが、学校はスズメバチの対策は万全にされていますか?」
面倒くさくなった先生たちは臨海学校も、林間学校も止めたそうだ。


今は、親も学校も寄ってたかって、子どもたちをひ弱な子に育てたがっているとしか思えない。昔の子どもたちの“やんちゃさ”、“逞しさ”が消えてきていると何人かの先生が嘆いていた。
私の家では、夏休みをフルに活用して、田舎に子どもと孫たちを連れて行きひたすら遊ばせる。海でクラゲに刺されるのは当たり前、山に行けはハチもいる、マムシもいる。
山や川で遊んだり、海で魚を捕ったりしているのは家の子だけ。地元の子どもたちは学校や町のプールで泳いでいる。


そういえば以前「よい子は川で遊ばない」という看板が川の土手に立ててあったと聞いたことがあるが、子どもたちが川で遊ぶにはかなりの規制があるだろうと想像できる。
富良野自然塾で「三世代ファミリーキャンプ」をやり始めて十数年になる。


普通、夏休みのキャンプと言えば子どもとその親たちが海や山に出かけるのがパターン。お爺ちゃんやお婆ちゃんは仲間外れになって、一緒にでかけることは少ない。そこで始めたのが3世代キャンプ。三世代が揃って参加する。このキャンプは、淋しく取り残された世代の救済という意味もあるが、昔自然で遊んでいろんな体験をし、いろんなスキルを持っているお爺ちゃんたちのスキルと経験を孫たちに伝えていくことが主目的。「この実は食べられるんだよ!美味しいよ!」「これでこんな遊びが出来るよ!」などなどと教えてくれるお爺ちゃん、お婆ちゃんは孫たちの尊敬の的、ヒーローだ。


環境問題を扱っていて思うのは、環境問題は一世代で解決できるような問題ではなく、世代を超えた問題であるということ。あらゆる面で知識や意識や経験を伝承していくことが必要だと思う。
21世紀から22世紀にかけて世界は大変な時代を迎える。


先進国が今まで通りの贅沢な暮らしを続け、中国やインドといった巨大な新興国や多くの人口を抱えるアジアの途上国などが先進国と同じような便利快適な暮らしを追い求めていけば、地球は崩壊する。
温暖化はさらに進む。今でもかなり狂い始めている気候がさらに狂ってくる。安定した気候が続くことを前提にして生活している人たちには想定外の事態が頻発する。


一方で人口はさらに増え続ける。今世紀には今の倍の食料が必要となる時代が来ると言われているが、その時に異常気象などが原因で食料が減ったら人々はどうするのだろう?分け合うのだろうか、奪い合うのだろうか?今までの人類の歴史の中で食料を奪い合うことは数限りなくあったが、食料の足りない国に自分の国の食物を減らして分け与えてきたという話を聞いたことがない。


食料以外にも地球資源の問題もある。後、数十年、あっても百数十年分しか残っていないと言われるエネルギー資源、鉱物資源を使い果たしたら人類はどうなっていくんだろう?
東北大震災が起きた時に新聞などがよく使った「パラダイムシフト(価値観の大転換)」という言葉も人々は今ではすっかり忘れてしまったように暮らしているが、これから私たちは、人類はどうすればいいのか?どこに向かって進めばいいのか?
方向は見えている。命の源である自然を大事にし、自然を敬い、自然と仲良くやっていくしかない。


60年ほど前までそのように生きてきた世代の日本人はそのやり方を知っている。ところが、その後に生まれた人たちは欲望全開の今の生活が当たり前だと思って暮らしている世代。“足るを知らない世代”であり、“自然と仲良く暮らすこと”を知らない世代。
60年以前と以後には大きくて深い溝、断絶がある。
60年前の暮らし方とその価値を実感として知っている人たちは60歳以上の人たちだ。
その人たちが60年以前の暮らし方や考え方を伝えなければ誰が伝えるのだろう?


但し、それを伝えなければならない団塊の世代以上の人たちにはたくさんの時間が残っていない。


これからの時代を生きていく世代のことを思うなら高齢者には日本人が大事にしてきた自然との共生の思想とその方法を伝える義務がある。
モノを大事にする生き方、食べ物を無駄にしない生き方、自然を大事にして仲よく暮らす生き方などなど、教えること、伝えること、やることは山ほどある。


「お爺ちゃん,お婆ちゃんはずれている」と嫌われることもあるかも知れないが、そこは一工夫が必要。嫌われないように伝えるべきことをちゃんと伝えられる可愛くて指導力のある年寄りになって欲しい。
今こそ、社会はお爺ちゃん、お婆ちゃんの出番を待っている。

 

林原  博光  (はやしばら  ひろみつ)
NPO法人 C・C・C 富良野自然塾 専務理事 副塾長
1943年 鳥取県生まれ。“離れてしまった子どもたちと自然との距離を近づけること”を願って様々な自然学校での指導、運営に携わる。2006年より、作家、倉本聰が主宰するNPO法人富良野自然塾の専務理事、副塾長。閉鎖されたゴルフ場に植樹して元の森に還す「自然返還事業」と、そのフィールドを使った「環境教育プログラム」を運営し、地球レベルで環境問題を考える様々なプログラムを開発、全国各地に展開中。
CO2の排出によって引き起こされる異常気象など人類の危機的状況を人々に認識してもらい、未来の子どもたちに健全な地球を引き継ぐための様々な活動を続けている。

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