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アート・マーケットにおけるオークションハウスの役割

アート・マーケットの範囲って?
アートの定義は、視覚により認識できる作品を制作する表現のビジュアルアート(視覚芸術)と演劇・音楽・舞踊など身体や言葉により表現するパフォーミングアート(舞台芸術)に分けられます。

メディアで言われるところのアート・マーケットのアートは、一般的にビジュアルアート分野を指していて、シェアの過半数を占める絵画を筆頭に、彫刻、工芸、コレクターピースと呼ばれる収集品、版画、切手、ジュエリーなどが含まれます。


そしてマーケットは、ギャラリーと美術商による取引の「ディーラー」と美術品競売を意味する「オークション」の二つにより形成されています。しかし、落札価格の公表等、比較的透明性の高い「オークション」取引の大部分がカバーされている一方、「ディーラー」取引は、タックスヘイブンを利用した不透明な取引やe-Bayなどオンラインでの低価格美術品の取引、相対取引の一部は含まれません。


近年、日本でも存在感を増してきたアートフェアもギャラリーや美術商による出展取引にあたるので「ディーラー」の一部です。


オークションハウスって?
今年5月、サザビースNYコンテンポラリー・アート(1945年以降の作品)・セール(オークション業界では一般的に競売をセールと呼びます)にて、ゾゾタウンの前澤氏がバスキアの作品をそれまでの同アーティストの最高落札価格の2倍にあたる約123億円で落札したり、大阪の藤田美術館が美術館建替費用の調達を目的に出展した所蔵品31点が、3月のクリスティーズNY中国・日本美術セールにて、予想下限価格を大きく上回る300億円で落札され、これまでのアジア美術オークション史の記録を塗り替えたニュースは、記憶に新しいところです。


サザビースは1744年、クリスティーズは1766年にロンドンで設立されたオークションハウスです。この2社を含む数社のオークションハウスが、世界のオークションマーケットにおいて、過半数のシェアを占めています。


私がサザビースに在籍した90年代オークション業界の主流はモダン・アート(1875−1945年)、なかでも印象派絵画セールが花形で、80年代後半からの絵画投機ブームに沸き立つバブル紳士達が当時のオークション最高落札価格を次々と更新し世間を騒がせていました。バブル崩壊後は、主に投機目的で購入された一流画家の二流、三流作品や欧米では見向きもされない作品が不良資産化し処分されたのもこの時代です。


多くの人にとってオークションは、欧米や日本から参加の日常生活で余り関わりのない特殊な人たちによる、過去の偉人の作品購入から、最近では、メディアでも頻繁に取り上げられる人たちによる、現代アートや存命アーティスト作品の購入という概念へシフトし、サラリーマンや若年層にとってもオークションをより身近な存在と感じるきっかけにもなったのではないでしょうか。

 

アートの価値って誰が決めるの?
アートは、創造的で心に響く活動であり、それを鑑賞し、楽しむことによって価値が無限に広がるものであって、商業的目的のマーケティングとは切り離して考えられなくてはならないと公言する人たちもいるでしょう。


サザビースで最初に教えられたこと、それはアートの価値は「Beauty 美しさ、Rarity 希少性、Marketability 市場性」で測られるということ。美しさは、主観的判断によりますが、市場性は、数値化できる要素です。


世界のアート・マーケットは、2004−2005年頃から急成長を遂げ、今日では年間約5兆円と言われています。そして、その30%をアメリカ、約25%をイギリス、20%を中国がシェアを占めるようになりました。プライバシーや資産開示リスクを理由に欧米のオークション離れが進んでいる一方、セールでは次々とアーティストや作品の落札価格の最高値記録が更新され、市場価値を高めています。アート・マーケットにおいて、オークションセールが占める割合は半数を割ってしまいましたが、市場機能を支える価格の透明性や社内スペシャリストによる査定でのオークション前公開価格設定システム、そしてメディアでの注目度や社会へのインパクトを考えると、オークションハウスがアート価格に及ぼす影響は多大です。

 

現在進行形のアート・マーケット
リーマンショック後の2009年に一時的な減少がありましたが、過去10年間でアート・マーケットの売上高が、急速に高いレベルに達し、限定されたマーケットでは、継続的な成長を維持することが難しくなりました。それに加え、アメリカ新大統領による政治混乱、英国のBREXIT、中国の景気減速などの不安定要因や貿易関税加重の可能性が及ぼすクロスボーダー取引への影響により、アート・マーケットの安定化と急伸力の回復が求められています。


新興国市場の開拓とアートフェアやコレクター・クラブでの新規顧客の獲得や、オークション業界の従来取引の競売から、作品を委託販売するプライベートセールへのシフトに今後ますます期待が高まります。
最後に、アート鑑賞の際に忘れてはならないフレーズを。


 Beauty is in the eye of the beholder = 美は見る人の目の中にある
 美とは客観的なものではなく、見る人の意識の中にのみ存在する

 

畑  リサ  (はた  りさ)
幼少期より海外で単身生活。オークションハウス、外資投資銀行を経て、現在は主に海外企業やアーティストの業務提携・ライセンス契約を行う。寄席からオペラまで年間約80公演を鑑賞するアートラヴァー。

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