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イノベーションを起こす 「場」づくり

コクヨは、文具からオフィス家具、空間構築まで幅広く手掛ける企業である。そんなコクヨは、働き方の変化をとらえ、時代に合った働く環境を提案するために、独自の「ライブオフィス」を全国で展開している。

繰り返す不況や環境破壊などは企業のビジネスモデルはもちろん、働く環境にも大きな影響を及ぼす。そんな中で2008年から約5年間に渡り、エコ+クリエイティブな働き方を提案する実験型オフィスとして「エコライブオフィス品川」に取り組んできた。ジュガードのDo more with less~あるもので工夫する~といった創意工夫の精神は、日本のクリエイションの場でどのように活きているのだろうか。


コクヨの場:「ライブオフィス」
コクヨでは、1969年の大阪本社竣工時から「ライブオフィス」という実験型オフィスのあり方を模索してきた。ライブオフィスとは、自らが開発した製品をオフィスで自ら使用し、その様子を「生きたショールーム」として社外の人たちに働いている様子を見てもらい、働き方を商品提案にしてしまう考えだ。そうした中で生まれるお客様との対話の中から、潜在するニーズを顕在化させ、顧客のありたい働き方に添ったオフィス空間の提案を可能にしている。


この「ライブオフィス」の取り組みは、大阪や名古屋など全国の各拠点に広がり、現在は、国内25箇所、海外4箇所で体験できるようになっている。


2008年から2013年には、エコをテーマに東京・品川に環境配慮型オフィス「エコライブオフィス品川」としての実験を行った。エコを単に節電や省エネなどのような「強要し耐える」だけのものにするのではなく、五感を開放しながら多様な人々が共創する場に変え、いかにそこから「新しくクリエイティブなものを生み出すか」という創造性についても追求した。


クリエイティビティには多様性が不可欠である。多様性のある働き方に対してどう向き合い、そこからどんな価値を生み出していくか、これからの企業に求められる課題に対して、コクヨはエコライブオフィス品川での実験を通して、社外の多様な人たちを集めてディスカッションやイベントを行ってきた。


「市場に対して新しい商品、サービスをどう創り出していくか。さらに、市場さえ創っていかなければならない時には、トップダウンよりも顧客に近い現場からの発想が重要になります。現場でリアルな状況や情報に触れている人たちが社内外の壁を越えてお互いに共創することが、あらゆる業界で求められています。そのために旧来型の指示命令で動く働き方とは異なる仕組みとマネージメントが必要です。現場にいる人たちが主体的に考え、協業すべき人や組織と連携しながら動き、マネージャーがファシリテートしながら判断していく。これまでとはコミュニケーションの取り方も違ってくるので、意識改革がとても大事で、オフィス空間が意識や行動に働きかける役割は大きいと考えています。」(齋藤氏)

働き方を変えて生まれた、
Do more with less「モノコラ」
この、ライブオフィスでこれからの働き方を考える中で生まれた商品がある。それは、2012年2月に発売された「モノコラ」だ。


背景には、企業の研究機能のプロセス改革の必要性があった。「企業内でも研究開発は、機密条項の関係で他部署と行き来がしづらく、サイロ化している企業が多い。『オープンイノベーションが必要』と言われても、研究と開発のプロセスには空間と時間の大きな隔たりがあります。そういった研究と開発の橋渡しに悩んでいる人、研究開発のプロセスに対して課題を抱えている製造業の方々に集まってもらい、どんな働き方をしたら研究開発がうまくいくのかということを議論しました。そこで出てきたのは、研究施設、実験室と、自分たちのワークスぺースが離れているのでアイデアをパッと試せない状態にある、という課題でした。」(齋藤氏)


「モノコラ」はその課題を解決すべく、まさに実験とデスクワーク、ミーティングまでもその場で行えるような製品として誕生した。
「モノコラ」は一見すると単なる四角いテーブルだ。研究室には実物はあるが議論する空間がない、オフィスには議論する空間はあるが、実物がない。実験室で実際の製品を触りながら議論するシーンを想定して開発されたという。
実験室には、機器を置く作業台があり耐荷重があるが、動かない。ワークテーブルは軽いのだが、実験機器の様な重量物は置けない。「モノコラ」は耐荷重に優れ、「重いものが乗せられるが動かすことができる」という一見相反する特徴を合わせ持つ。また、使わない時には積み重ねることが可能で、手狭な環境において、スペースを有効利用することができる。


このような発想は単体の製品を開発するプロセスからは生まれない。ユーザーとの対話を重ねてコンセプトから創っているため、同じ課題を抱えている企業の研究開発担当者に紹介すると「あ、これ欲しかったんだよ」と説明しなくても伝わる。作業台とワークテーブル、そして移動ができ、アイデアの持ち運びができること。「モノコラ」は、既成の設備・環境の中から、求められていた機能性をDo more with less、既存の部品を組合せることで生まれた、オフィスの一つのジュガードイノベーションといえるだろう。


可能性を広げる「場」づくり
コクヨは、まずやってみる、つくってみる、プロトタイピングが得意だという。不確実で不安定な社会のなかで、変化に強い組織になることが重要で、ジュガードの「あるもので工夫する」という観点は、ライブオフィスの考え方と共通するという。オフィスは作って終わりではない。ワーカー自身がどのような働き方をして、どのように場を使いこなしたら、より生産性が高く、個人にとっても、より幸せな働き方ができるのかを工夫し続けることが持続可能性につながる。それをお客様と共に考え、コクヨが実験台となって提案し続けていくこと。働き方を軸にもっと提案できることはあるはずと齋藤氏は言う。


今、個人の働き甲斐と組織の企業の成長をつなげなければいけないという時期にきている。オフィスはそれをつなげるソリューションのひとつ。個人が豊かに働けて良いコラボレーションができる、社内外共創ができて、その結果として良いビジネスができること。それによって、社会が良くなり、企業が成長できる、それらを繋げて考えることが必要だという。


ただ、その「場」が必要であること、社員が働き甲斐のある環境が、結果として企業と社会のためになるということを、当たり前のようにつなげて考える経営者はどれだけいるだろうか。経営トップはわかってはいるけれども、それをつなげる言語がない、共通の尺度がない、つなげる仕組みが欠けているというのが実情だ。


オフィスという形にとらわれず仕事はどこでもできる時代。しかし、人が集まってこそ価値は生まれる。多様なコラボレーションをどう盛り上げるか、どう活性化させるかというところに焦点をあてると、オフィスの可能性は無限だ。そのためには「場」づくりを意図的にしかけていかなければならない。

 

取材協力:齋藤敦子氏
コクヨ㈱  ワークスタイル研究所  WORKSIGHT LAB.
参考)コクヨ「ライブオフィス」
http://www.kokuyo.co.jp/com/liveoffice/

 

 

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