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アメリカのファッション、流通業界の現状

今年2月、仙台のさくら野百貨店が、突然閉店した、30年以上の歴史を持つプランタン銀座も閉店し、3月にはマロニエゲートに生まれ変わった。

さらに相次いで地方百貨店が閉店するというニュースが昨年から今年にかけて相次いでいるが、それはアメリカでも同様かそれ以上の事態である。NYのサンクスギビングといえばMacy'sのパレードというほど名物として知られる大手百貨店チェーン「Macy's(メイシーズ)」は、ホリデー商戦が明けた今年1月、昨年発表していた今年中に68店舗を閉店し、数年内にさらに32店舗を閉店することと大規模リストラを改めて発表した。リストラは、全従業員15万8千人の約7%にあたる1万人以上のリストラという衝撃の内容である。同じく百貨店の「J.C.Penny(ジェイ.シー.ペニー)」も138店舗の閉鎖と5,000人のリストラを発表。さらに、「Sears(シアーズ)」からも42店舗の閉鎖が発表された。


これは百貨店に限ったことではなく、アメリカと言えば思い浮かぶ象徴的なブランドである「Ralph Lauren(ラルフローレン)」も50店舗の閉鎖、1,000人のリストラを発表した。さらに、2年半前に五番街にオープンしたPOLOの旗艦店の閉店もつい最近発表された。


一昨年8月、コーチは北米の1,000を超える百貨店内卸売店舗の25%の撤退を発表した。2014年後半から、2015年にかけて北米の約70店舗を既に閉店している。ただ今回の閉店はブランド価値の向上を図っての前向きな戦略ということで、世界にある1000店舗のうちおよそ450店舗を新コンセプトに変更しているというし、「Kate Spade(ケイトスペード)」の買収を検討しているという噂も流れている。


一度ブランドイメージが低下したブランドを建て直すのは難しいが、この決断が後に生きる可能性もまだ十分にあるし、そうなれば見習う部分は多いので今後に注目である。


百貨店が苦戦の要因の1つとして語られるのは、日本同様にEC市場の躍進があげられる。2015年の売上高は、約34兆1,700億円と発表され、2014年からの伸張率は14.6%、2010年から平均15%ほどの伸びを続けている。そのうち、2015年のアパレルと雑貨の売上高は、約6兆3,500億円と言われ、今後もまだまだ伸びるという予測がされている。Amazonが日本のファッションウィークを支援していることを考えても、今後もファッション分野に力をいれる方向性は垣間見える。


アパレル全体は日本同様に芳しくはないが、注目はスポーツブランドだ。日本は苦戦しているようだが、カナダ発の高級ヨガウェアブランドである「Lulu Lemon(ルルレモン)」の勢いは留まるところをしらず、ニューヨークにはスポーツブランドの大型旗艦店のオープンが相次いでいる。昨年秋、5番街のブライアントパークよりに「adidas(アディダス)」と「NORTH FACE(ノースフェイス)」のフラッグシップがオープンし、近くには「asics(アシックス)」もオープン予定、さらにSOHOには「Nike(ナイキ)」の新店舗もできた。既にオープンした店舗は最低22,000スクエアフィートを超える大型店舗であること、様々なタイプのカスタムオーダーができるのが共通した特徴である。


店舗デザインのかっこよさでいえば、adidasに軍配があがる一方で、Nikeはデジタルとの間をうめる役割の実店舗として、Immersive Experience(夢中になれる体験)とうたい、テクノロジーの導入や購入前に試せるサービスに特化している。例えば、購入前にジョーダンのシューズでレイアップシュートを試し、その様子をカメラで追い、Nikeのアプリにアップロードするなど。他にも購入前にスタッフが1on1に最大1時間付き合ってくれるサービスなど、心ゆくまでシューズを試すことを可能にしている。この店舗は、今後の実店舗のあり方の方向性探る実験店舗という印象である。


小さなブランドではあるが「The Apartment by the line(ザ アパートメント バイ ザ ライン)」というセレクトショップが好調である。2014年秋にECサイトのローンチと同時に、週2日だけ(他はアポイントメント制)オープンするショールームのようなショップとしてSOHOにオープンした。まるで、誰かのアパートメントに遊びにきたかのようなショップで、置いている全てのもの(洋服はもちろん、アートから食器に至るまで)が販売されているライフスタイルショップとして瞬く間に話題になって人気ショップとなり、毎日オープンするようになった。昨年LAと夏限定でハンプトンにもショップをオープンするなど、まだまだ人気が衰える勢いはない。


洋服のセレクトセンスに限らず、コンセプト、感性や生活スタイルに共感できるというのは、今後のショップの1つの方向性になるだろう。


2015年1号でご紹介したアイウェアブランドの「WARBYPARKER(ワービー・パーカー)」もますます絶好調である。


日本でもZoffやJINSから高級眼鏡のセレクトショップまでどこもアイウェアは好調と聞くが、NYでも洋服が売れなくなったかわりというわけではないだろうが小物にこだわる人が増えているのか、眼鏡のセレクトショップが増えている状況も好調理由の1つである。さらに、ブランドに語れるストーリーがあるのが彼らの強みであるように感じる。「メガネ業界に革命を起こすこと」を目標に2010年に創業し、高価で退屈な眼鏡フレームに飽き飽きしていたという彼らは、中間業者を省いて、ハイセンスで高品質な眼鏡を提供するという意思のもと、$95と$145の基本プライスで提供する。そして、「世界中の眼鏡が必要な人に。見る権利は全ての人にある」という信念のもと、アイウエア1つの売上に対して、1つのメガネを寄付する「Buy a pair,Give a pair」という活動を行なっている。


この活動は、途上国の男女に視力検査の実施方法を教育し、彼らが現地の人たちに非常に安い価格で販売できるようにサポートを行う彼らのパートナー団体を通して行われている。ただメガネを無料で配るのではなく、現地の人たちに知識と技術をトレーニングし、彼ら自身の手で現地の人たちにメガネを格安で販売してもらうことで、彼らが安定的な収入源を得ることができるように支援している。「高品質」「適正価格」はあらゆる分野でこれからの消費の鍵を握り、さらに「社会貢献」は当たり前になり、企業姿勢が問われる時代になってきている。


物に溢れた豊かな時代、ファストファッションで安価にオシャレはできるが、品質が良いとは言えず、すぐに使い捨てられてしまう洋服たち。商品が手元に届くまでの裏側にある過酷な労働など、安さと引き換えにしたものに疑問を抱くようになっている人たちが増え、消費スタイルが変わってきている時代をどう捉えるか、が今後ますます重要になるだろう。
※1$=100円換算

 

吉田  けえな  (よしだ  けえな)
フリーランスのファッションコーディネイター&マーケティングディレクター。大学在学中からアタッシュ・ド・プレスでのアシスタントを経て、PRエージェントで海外ブランドPRを担当。その後、コンサルティング会社でマーケティングを担当し、現在は、百貨店のコーディネーター業務なども行う。年間、数百を超えるショップへ足を運び、見て、着て、食べた、リアルな視点を大事にしたマーケティングを中心に活動。

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