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ファッションを通して世界をハッピーにする

「ファッションが世界を救う!」とまでは断言できないが、ファッションには人の気持ちをハッピーにする力がある。

なんだかテンションがあがらない日でも、素材やデザインがお気に入りの洋服に身を包むとテンションがあがったり、着ているものが似合っていると褒められて嬉しくなったり、そんな経験をしたことがある人も多いのではないだろうか。2014年、NHKで世界一オシャレな紳士と紹介されて話題になったコンゴのサプールは、「武器を捨て、エレガントな装いをしよう!」とのメッセージを発信している。そこで今回はファッションを通して世界にハッピーの連鎖を作り出している、そんなブランドをご紹介する。


まず1つ目のブランドは、「RICCI EVERYDAY(リッチーエブリデイ)」。ヴィヴィッドなアフリカン・プリントを使ったウガンダ発のブランドである。ブランドの背景や理念は、生産者・生産地に倫理的に配慮をしたいわゆるエシカルブランドというカテゴリーにもあてはまる。HPを開くと目に飛び込んでくるのは印象的なアフリカン・プリントのバッグ、モデルの黒人女性がスーツケースとバッグを合わせている姿が印象的で、いわゆるエシカルブランドと言われて想像するイメージとは少し違う。

 

同ブランドを立ち上げた仲本千津さんは、商品はもちろんだがヴィジュアルにもこだわりがあり、プロのモデルやフォトグラファーと一緒に商品が際立つイメージを作り上げた。商品背景にストーリーがあることはとても大切だが、それに胡座をかくことなく、なにより長く使ってもらうにはプロダクトとしての魅力があるからこそだと思い、フランスといえばエルメス、イタリアといえばプラダのように、ウガンダを代表するブランドになることを目指している。

 

というのも、ウガンダではスーパーマーケットなどで売られているものの多くは輸入品で、現地のウガンダ人でさえもメイドインウガンダのものの品質を疑う傾向にあるという。日本で販売するだけでなく現地にも直営店を出したのは、働いている女性たちに、お客様が実際に商品を手に取ったり買ったりする姿をみてもらうことでプロ意識を養うばかりでなく、 産業がないウガンダで誇りを持ってもらえるブランドを作りたいたいからだと語る。

 

銀行の営業を経て、東日本大震災をきっかけに、兼ねてから希望していたアフリカの開発課題に携わる仕事をしようとNGOへと転職したという彼女は、NGOの東京オフィスを経てウガンダオフィスへ駐在。現地で生活する中で、ローカルマーケットでみかけたカラフルなアフリカン・プリントに惹かれたことからブランドをスタートした。さらに興味深いのはお母様の律枝さんが会社の代表をつとめられていること。社会起業というとというと大義を持った特別な人がはじめるものというイメー ジがあるが、地方都市の主婦である母と娘で始めたということが、いい意味でソーシャルビジネスのハードルを下げることにつながればと語る。

 

社会をよくしたいという思いさえあれば、誰にでも様々な可能性はあるのだと体現してみせる姿には勇気をもらう。業界ルールなどお構いなしに熱い想いたっぷりに商品の良さを語るお母様と、冷静だが心に熱い想いを抱える千津さんの絶妙さが同ブランドの魅力にも繋がっているように感じる。4月から日本各地ではじまるポップアップショップで、千津さんがウガンダのローカルマーケットを訪れて、沢山ある色柄豊富なアフリカン・プリントにドキドキワクワクした感覚をぜひ売場で体感してみてほしい。常時70種類ほどの柄を展開し、同じ柄のアイテムが沢山作られていないことも出会うことを大事にできる同ブランドの魅力である。


「beyond the reef(ビヨンドザリーフ)」は、ファッション誌でライターをしていた楠佳英さんがはじめたブランド。ファッション誌のライターをするうちに、ファッションは好きだがいつしか大量消費に疑問を持ち、疲れると感じるなど気持ちに変化がではじめてきて、物より事に重きをおきたいという気持ちが自然に芽生えてきた。そんな彼女がブランドをはじめたきっかけは、1日中編み物をしていたお義母さんの存在があった。

 

彼女にとって、自分の身近な人をハッピーにすることが一番大切なことで、少しずつでもその連鎖が広がっていってほしいと語る。高齢者というと急に社会で支えられる存在になり、ネガティブな話題として捉えられがちだが、ほんの少し前までは現役でまだまだ元気だし、もう一度社会で役割を与えらないかと考えた時に、自分ができるのはファッション、救いたいのは高齢者、その二つをドッキングさせてみてはどうだろうかと考えたそうだ。


事に重きを置くことは大事だが、ストーリー重視では2つ目の購入には繋がらないのではと考え、ストーリーを知らなくても買ってもらえるようなブランドを目指し、ソーシャルビジネスであり、アパレルビジネスでもある、他にはない新しいスタイルを確立してきた。BtoCにこだわり、大量生産をするつもりもないし、今後セールをするつもりもない。それは、作り手はブランドの命と感じているので、ビジネスの急拡大により負荷をかけることはせず、ちゃんと目の届く範囲でやりたいと考える。

 

バッグ1つ1つに作り手さんの名前が入っているのも特徴で、購入者にはフィードバッグ用紙も入っているので、作り手と買い手が繋がる機会が生まれ、作り手はお客様に届いている実感も得られるし、買い手は自分の手元の商品を作っている人がいるという実感が増す。作り手は誰かが自分の作った商品を使っている誰かがいることへの誇りやモチベーションに繋がり、お客様は商品への愛着が増すだろうし、いいことづくめである。


商品はお客様目線で作り、作る過程の部分では作り手を大事にすることを一番に考え、どこかで泣いている人がいる物作りはしたくないし、働き手には、自分の一番大事な家族の行事を大切にしてほしいと考えていると語る楠さんに共感する顧客はこれからも増え続けるだろう。顧客は30?40代中心で、商品力半分、共感力半分で、決して安くはないが、ブランドの考えに共感してもらえるお客様が選んでくださっている実感があるという。

 

販売はブランドができた時から自社サイト中心で、商品ができるまえからSNSで発信し続けていたので、少しずつフォロワーが増え、商品の販売ができる頃には楽しみに待っていてくれた方が多かったという。小さなブランドでもお客様に発信するツールを持っている現代は強い。今後はアトリエ併設の路面店をだすことで商品が出来上がる家庭をみせることや、2020年までには海外にも挑戦したいと語る楠さん。


RICII EVERYDAYの仲本親子にも通じる話だが、社会起業家やソーシャルビジネスというと、意識の高い人が意気揚々とはじめるものという印象があるが、2人とも少し勇気をだして一歩踏み出してみた、いい意味で一般的な感覚を持ち合わせる人たちなのだと感じるのが今回の取材を通してみえてきたことであり、世の中の人がちょっと勇気をもってはじめることで、ハッピーの連鎖がうまれ、社会は素晴らしい方向に変わっていくのではないかという期待が持てると感じ、未来が楽しみになった。

吉田  けえな  (よしだ  けえな)
フリーランスのファッションコーディネイター&マーケティングディレクター。大学在学中からアタッシュ・ド・プレスでのアシスタントを経て、PRエージェントで海外ブランドPRを担当。その後、コンサルティング会社でマーケティングを担当し、現在は、百貨店のコーディネーター業務なども行う。年間、数百を超えるショップへ足を運び、見て、着て、食べた、リアルな視点を大事にしたマーケティングを中心に活動。

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