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ライブ事業の展望

昨今音楽CDが売れずにライブエンターテイメントが活況との記事を良く見ますが、そのライブエンターテイメントとはいったい何を指すのでしょうか?

そこで弊社の例を挙げてみると、弊社では2年前からライブにおける事業を3本の矢と称し3つの事業として捉えなおしました。


1.コンサート、2.エキシビション、3.スポーツ・エンターテイメント


大きく括るとこれがライブ・エンターテイメント事業の柱ということになります。一般的にライブ=音楽コンサートとのイメージが有ると思いますが、実際弊社のようなライブ事業者にとってのプライオリティーは、既にライブ=音楽だけでは無いのです。ここではここ数年のライブ事業の推移の説明はあえてしませんが、弊社の状況は他の事業者も同じようなことであると推測すると、音楽コンサートから脱却していく必要が業界的にはあるということになります。
それでは上記3事業の状況と展望を具体的に弊社の例で説明させて頂きます。


1.コンサート
音楽コンサートは大きく分けて、3つ有ります。いわゆる著名なアーティストのコンサートツアー、演劇等の舞台、そしてフェスティバルです。
ここ数年はフェスティバル需要が高く、季節問わず各地で大規模なフェスティバルが開催され成功を収めています。フェスティバルの成功事例は約20年前にさかのぼり、欧米スタイルのフジロックフェスティバルから始まり、その後のサマーソニックの成功は皆さんもご存知だと思います。


フェスティバルは1アーティスト平均30分~60分のショーで構成され、アーティストが自身をアピールしやすいメニューを組む為、ヒット曲中心の構成は観るものを飽きさせず、始めてみたオーディエンスが、そのアーティストのファンになるケースも多々有ると思います。
そして最近のトレンドとしては演劇で、2.5次元と言われるアニメ原作を元にした舞台は人気を集め、コンテンツが豊富な日本のアニメカルチャーの広がりを受けてのさらなる拡大が期待されます。


2.エキシビション
大きなイベントだと展覧会や博覧会があり、アニメなどジャンルに特化したものや体験型イベント等の展示会まで広がりを見せて、幅広い客層がお客様となります。ハイカルチャー的なイベントの代表が、~展などの催事イベントで、ポップカルチャーはコミコンなど数十万人単位のお客様を動員するようなビッグイベントも出てきています。ターゲットは全ての年代の方々です。それぞれの世代で嗜好をマーケティングし開催しますから、可能性は無限大といえます。


弊社の例では、ご当地着ぐるみキャラクターショーやランイベント、最近ではグルメイベントやフランスの骨董品を集めたラブロカント(ヴィンテージ商品を専門に扱う)フェスなど、多岐にわたり様々な層へ様々なイベントを作り上げています。


3.スポーツ・エンターテイメント
実は、弊社では特にこれに力を入れています。例えば、レッドブルエアレース。空のF1と言われています。また、テニスの国際大会IPTLやサッカーの国際親善試合など、これも様々なスポーツのライブエンタ―テインメントを展開しています。


なぜコンサート以外のライブに力を入れているのか? その理由は当然音楽コンサート以外に収益のチャンスを得る可能性を広げることですが、別の理由もあります。それは私自身がコンサートツアーの仕事を長年行ってきて、そのノウハウが意外なところで活かせたことによるビジネスの可能性を感じたからです。その結果が上記2、3のコンサート以外のビジネスへの取り組みでした。


例えば、観客の目線でお客さんが気持ちよく観戦できる環境作りやストレスの無いチケットの発売方法などのハード面と、イベントの合間にサイドショーを入れたり、ただイベントを見るのではなく体験や体感ができるようにするなど、素晴らしいホスピタリティーの提供を目指すソフト面です。
このように、プロモーターの立場としても時代時代に、新たなライブをオーディエンスに提供し続ける事が出来て、はじめてライブ・エンターテイメントの発展が有るのではないかと思います。


レコードビジネスの話に一旦戻すと、過去私も97年にレコードレーベルを立ち上げ、幸い成功する事が出来ましたが、残念なことに98年にレコード業界はピークに達し、そこからCD事業は下降の一途をたどります。私も2000年にこの事業から撤退しました。理由は簡単で、IPOD等配信の出現によるものです。


96年にはアメリカやヨーロッパで、世界規模のアーティストを最も生み出している国々の、主要都市の目抜き通りでは、すでにレコード店は撤退し、CD自体マニアの物となっていました。そんな現実を目の当たりに見て、またアジア各国では違法CDは堂々と売られているところを見て、真正面から著作権に対する啓蒙活動と同時に日本の音楽をアジアにへと旗を揚げたとしても、その戦術自体むなしいものでしかない現実がありました。
結果、日本とは真反対の戦術を取った韓国スターの台頭がアジアで吹き荒れるわけです。
僕は90年台初頭から、日本人アーティストの海外ツアーを企画し力を入れていましたが、どうしても適わない思いがつのっていました。アーティスト、マネジメント、レコード会社、プロモーターの共通な価値観を見出せないまま仕事を続けましたが、年間1ミリオンUSドルを売り上げる為にかかった期間は7年間です。利益ではなく、売上げでです。


その頃韓国スターはどうだったのでしょうか?このようにライブ事業も臨機応変に対応しなくては未来もありません。
ここで海外の話に移りますが、弊社では海外マーケットについての基本理念があります。それは、我々は日本の会社ではなくアジアの会社であると考える事が重要だということです。日本は少子化で韓国やシンガポールでも同じ状況です。但しその全てのアジアの国々がビジネステリトリーだとしたら、大きなマーケットといえます。海外で弊社が取り掛かっている事業を紹介すると、今後力を入れていくのはフェスティバルのオーガナイズ、いわゆる共同主催で、実際の例をいくつか紹介したいと思います。


アニメライブフェスとしてはアジア最大級の「AFA(アニメフェスティバルアジア)」の開催地は、シンガポール、インドネシア、タイで、AFAシンガポールでは、3日間の開催でのべ9万人を動員しています。あのシンガポールでですよ!人口が少なくても、価値の有るイベントは動員力が有ります。このイベントは100%日本のコンテンツで、グッズ、ライブ等々見本市的な内容です。


他にも韓国で老舗的なフェスティバル「ペンタポートロックフェスティバル」をやっていますし、複数のアーティストのアジア、ヨーロッパツアーも企画制作しています。このように、日本のコンテンツだけを海外に持っていくのではなく、ローカライズする事も重要です。そして、これからの海外拠点としては、やはり中国です。あの圧倒的人口を持った国は成長を続け、いずれ世界最大のマーケットになる事は言うまでもありません。


そこでどうすべきか、戦術と戦略が重要です。コンテンツをどうやって運び、どうブレイクさせ、コンサートツアー、フェスティバルなどを開催させる事が出来るか? 事業としてリスクを伴うのも事実です。


最近だと上海などでは1000~1500規模のライブハウスショーは年々増え続け、特に日本のポップカルチャーへの期待が高く、現地パートナーからもブッキングオファーが途切れる事がありません。このように各地各国で様々な事情があっても、ポップカルチャーは生き続けます。
我々プロモーターの仕事は、ポップカルチャーの創出とエンタテインメントを通じ交流や喜び、幸せを運ぶ事です。その気持ちと情熱が続けば、ライブは成長し続けると信じています。

 

杉本  圭司  (すぎもと・けいじ)
㈱Zeppライブ、㈱バックステージプロジェクト  代表取締役
1959年、東京都生まれ。1985年、コンサート制作会社・株式会社バックステージプロジェクト設立代表取締役。X JAPAN、LUNA SEA、など多数のコンサートプロモートを手掛けるほか、97年ビクターと共同でレーベル、ガイレコード設立、河村隆一他をリリース。その後、2012年、Zeppライブエンタテインメント設立と同時に代表取締役に就任。

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