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日本の音楽を世界に発信するために必要なこと

日本の音楽を日本の文化としてとらえたとき世界に発信するために必要なこととは

・特化すること
・ライトパースンに出会うこと
・世界規格の知識に接すること
・英語は最重要インフラです

スポーツの次は、やはり音楽でしょう!
リオ五輪。毎日が表彰台で連日列島が沸きました。メダルラッシュで数の多さもトップ6の大活躍。スポーツでもやっと日本の国際的高評価に見合った結果になった大会になりましたね。国際舞台での集中できる緊張感の経験を4年間の間に海外で培われ意識の高さを身に着けたことなどが理由に挙げられるかと思いますが、それは音楽アーティストやスタッフにも当てはまることでしょう。
閉会式のTOKYO SHOWでのマリオ登場や音楽や演舞にも海外の日常に入り込んだメイドインジャパンのスライスを見ることができました。こうなると、あらためて、さぁスポーツの次は、いよいよ音楽ですね。


BABY METALから何が見えてくるのか
いま世界に一番近いのが、BABY METALでしょう。それまで世界に浸透した一種摩訶不思議なkawaiiに象徴される3人の少女が、「ヘヴィメタル×アイドル」という奇抜な革新性を表現する世界は、完全に想像を超越した異種異空間の新しいエンターテイメントです。それもピッタリはまったメイドインジャパン!


私の経験から言いますと。売れないわけがない!というほど、スタッフのみなさんは成功への方程式に果敢かつ緻密に取り組んでいます。デビューしばらく後出演したサマソニ2012での英カメラマンとの出会いの偶然性はあるにしても、それを機に海外ミュージシャン仲間の間にBUZZを生み、へヴィメタル系に特化したSonicsphere FestivalやHEAVY MONTREALなど海外フェスのチャンスをつかみ、はてはレディー・ガガのオープニングアクトを務めるまでとんとん拍子。チャンスを逃さずフェーズごとのライトタイミングに手を打っていったのは、緻密な設計図に基づいているからでしょう。それを実行できる存在に欠かせないのが、エージェントです。BABY METALには、米4大エージェンシーの一角、ウィリアム・モリス・エンデヴァー・エンターテインメントがブッキングエージェントを務めています。(ちなみに日本のアーティストでは、坂本龍一、X-JAPAN、MIYAVIも契約。日本人上級スタッフもいる。今年3月、ソフトバンクがWMEに2億5000万ドル出資したのは記憶に新しいところ。)このようにダイナミックに先行投資ができるのもアミューズという上場企業がマネージメントしているという背景もあるでしょう。ライトパースン、ライトタイミング、ライトマーケットがパッケージングされると話はとんとん拍子に弾む好例です。


日本の音楽ビジネスと世界規格の差異を学ぶこと
この違いを学ぶことで一段とパワーアップします。日本の強さは、改善加工能力の高さで、世界が認める日本人の最たるもの。合意まで時間を要する日本の商い慣習。自分の意見や方法を最優先で覇権を争う欧米の商い慣習。そのどちらが優れているかは、その時代時代で異なりますが、トライアンドエラーでいつも時代に適応できる欧米の業界での知見の豊富な場所で勝負に出ていくには、最低限の知識を身に着ける必要があります。それには、まず情熱を持った各分野のエキスパートに出会いそれらをオーガナイズできる環境を作ること。そのためにも国際的音楽コンベンションに参加をすることをお勧めします。経路依存性の問題を長い間解決できない日本の音楽ビジネス環境を比較できる良い機会です。


音楽コンベンションには、少なくとも数年連続で参加をすること。1回だけで世界がわかりまた人脈ができるなど世界は甘くはありません。なかでも音楽ビジネスのあらゆる職能人が世界から参加するテキサス州都オースチン市で開催されるSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)は最適です。20年にわたり日本の音楽の窓口としてのJAPAN NITEが開催期間中の定番となりメイドインジャパンが最も理解され実績のある音楽コンベンションです。


新鮮度が高いこと
科学力、技術力、洗練性、先進性で高い評価を得たメイドインジャパンが海外の日常に定着して優に30年。その間日本のソフトを海外へ出す努力の多くは、補給なき孤軍奮闘体制で細々と続けられているのが現状です。


そんななかでも1980年代メイドインジャパン・コンテンツがソフト市場の一部をこじ開ける先鋒役になったのが、アニメ。音楽とテレビゲームの隙間を埋める家庭用娯楽としてお茶の間に深く入り込んでいきました。それも画風やストーリーの違いが新鮮で刺激に満ちていたことが、注視すべきところです。

 

日本らしさ
ジャパンメイドは革新性や伝統性またそれらが良く調合されてこそ日本らしさのオリジナルの強みを発揮します。
では日本らしさとは、なんでしょう。BABY METALに見られるモダン日本的要素<Kawaii、アニメ感、アイドル性、ファッション性、オタク性、ガールズグループなど>にはすべてが含有されています。さらに日本語でも受け入れられるジャンルであったこと。時代ですね。また坂本龍一、MIYAVIらの演奏技術や作品力から発する高いアーティスト性も日本らしさを含有したオリジナル性で高い国際性を発揮しています。とくにMIYAVIはカリスマ性と革新性も加わり高い訴求力が魅力です。


さらに「和」を融合したニュー和楽系も最近認知度が強くなりました。伝統と音楽的スキルが、オリジナル性を高めたことにより、新しいエンターテイメントの質感を醸し出しています。
新しいものは越境します。


シーンが過度期のときがチャンスです。そんなときに辺境から越境して飛来します。見慣れない、聴き慣れないものへの興味が高まり、新しいシーンを形成し市場がうまれます。
古くはエア・サプライをはじめメン・アット・ワークら80年初頭から5年間以上も欧米のヒットチャートを賑わした豪州産音楽もこの例に当たります。この余勢で数多くのオーストラリアの音楽が世界に発信され商業的にも成功を納めました。数は力、資源です。


世界は日本の音楽を待っています
いささか乱暴な私見ですが、ヒップホップやカントリーミュージックは、アメリカでの主流的音楽ですが、同時にローカル性が高いジャンルです。市場の保守性を感じます。ということは、越境のチャンスですね。マーケットのライフサイクルの成長過程での初動的フェーズに位置するモード、スタイルに入り込む余地はまだまだ残されていると考えます。そのためにも、イメージと作品に特化して、パートナー的ライトパースンに出会い、世界規格のビジネスを英語で学ぶ機会や場にどん欲に臨んでください。歌詞が日本語でいいからと言って英語は欠かせません。メディア対応に英語も要ります。ましてスタッフなら、交渉、現場対応のコミュニケーションは英語。英語抜きには考えられません。


オリンピックの日本選手のように失敗を恐れずリラックスして自信をもちのびのびと挑戦してください。まずはSXSWに行かれて世界を覗いてみてください。健闘を祈ります。

 

渡邉  ケン  (わたなべ  けん)
ミュージックコープ代表。JAB(Japan Artists Bureau)共同代表。元Sony Music Publishingでの海外契約交渉をはじめ、MSAPでアーティスト海外展開担当、SXSW Asia事務局長を歴任し数多くの日本の音楽家の海外活動の機会作りや支援を行ってきた。現在は国内のローカルアーティストのネットワーキングと発掘を一体化させる装置としての年次コンベンションJAB2017/2018に取り組んでいる。

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