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「シン・ゴジラ」のヒットが示す邦画コンテンツの新たな可能性

「シン・ゴジラ」は、東宝が12年ぶりに製作した日本版『ゴジラ』シリーズ最新作だ。

日本でのゴジラ製作は12年ぶりで、1954年制作の初代「ゴジラ」から62年、ポスター等に「現実(ニッポン)対 虚構(ゴジラ)」と書かれた通り、未曾有の巨大災害が起こった際の日本政府の安全保障や危機管理をゴジラになぞらえて描いたシミュレーションムービーである。


公開前後に「ゴジラ対エヴァンゲリオン」やスマホアプリ「モンスターストライク」などのコラボキャンペーンは話題になったものの、映画内容に関する情報が殆ど解禁されなかったこともあって、事前の期待度は決して高いものではなかった。それが、7月29日に公開されるとクチコミで評判が一気に拡散、ハリウッド版『GODZILLA』(2014年7月:ギャレス・エドワーズ監督、レジェンダリー・ピクチャーズ製作。興行収入32億円)を上回る初週記録で全国映画動員ランキング初登場1位を獲得、公開一ヶ月で累計興行収入53億円を突破するなど快進撃を続けている。


恋愛や家族・親子など、ハリウッドをはじめとするメジャー系映画が鉄則とする要素を一切排除した潔さでかなり思いきった内容ではあるが、「新世紀エヴァンゲリオン(以下エヴァと表記)」で知られ、2012年には「館長庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技」で『巨神兵東京に現わる』を手がけた生粋の特撮ファンでもある庵野秀明氏が総監督を務める話題性や、同じくエヴァシリーズの音楽を担当した鷺巣詩郎氏による劇中音楽の共通性などの仕掛けが奏功して、従来の怪獣映画ファン以外にも好評だ。


膨大な情報量と、大量の会議室シーンに象徴される日本政府視点の大災害対応をリアルかつ端的に切り取ったテーマ設定と展開は、まさに現在の日本でしか作りえなかった内容で、観客同士が語りたくなり、二次創作したくなる仕掛けと熱量に溢れており、SNSでの爆発的拡散が大いに頷けるところである。


ここで、ホットリンク社が提供しているソーシャルリスニングサービス「クチコミ@係長」※1を使って、2016年「シン・ゴジラ」と2014年ハリウッド版『GODZILLA』の各々公開前後の「ゴジラ」Twitter書き込み量を比較してみた(図1)。映画公開1週前の時点では2014年書き込み量が2016年を上回っているのに対し、公開初週に2016年の書き込み量が爆発的に増加している。「シン・ゴジラ」公開前の期待の低さと公開後の驚きの落差を如実に物語る結果だといえるだろう。


この原稿に着手した公開3週目でも書き込み量は極めて多く、様々な分野の専門家による評論から、進化を繰り返すゴジラの各形態や巨災対(巨大不明生物特設災害対策本部)の個性的メンバーにスポットを当てたプロ・アマチュアによる二次創作イラストまで、多岐にわたる内容で活況を呈している。
以降は、公開後3週間での「ゴジラ」Twitter書き込み量を2014年と2016年で比較した結果である。
図2は、公開後3週間の「ゴジラ」Twitter書き込み総量で、2016年は2014年の約6.7倍に達している。


また、「ゴジラ」Twitter書き込み者の性別(図3)と年代(図4)※2をみると、2016年に女性が、そして20~30代が増える一方で20歳未満のシェアが減っていることがわかる。
エヴァが初放送され、「シン・ゴジラ」で監督を務めた樋口真嗣氏が特技監督として注目を集めた平成ガメラシリーズが始まった1995年は、奇しくも阪神・淡路大震災や、オウム真理教の地下鉄サリン事件などの出来事が相次いだ1年でもあった。現実が虚構を超えることが想定外でなくなったことを知った当時15歳の子ども達は現在36歳、就職氷河期や、2011年の東日本大震災の津波災害と福島第一原発事故、計画停電などの強烈な体験が影を落としている。


これらエヴァ世代や、庵野監督と同世代か少し下(現在50歳前後)のオールドファンにとって、「シン・ゴジラ」は、想定外の危機に対する現状を映したリアルな対応から、組織の壁を越えた「鼻つまみ者、厄介者、オタク」が集まって難局に当たり、最終的に事を成すという、現状打破に関する共感やカタルシス、今後の希望につながる再構築、が示されて、また伊福部昭氏の懐かしの名曲使用もあって圧倒的に支持されたものと考えられる。


恋愛や家族・親子要素を描かずとも、Twitter書き込み総量の激増で実証されたように、女性のファンを増やし、また平成ゴジラシリーズおよびミレニアムシリーズ※3で育ってファミリーを持ち始める20~30代の層に再度「ゴジラ」への注目を集めさせた点は、今後につながる「シン・ゴジラ」の特記すべき功績であろう。
今後海外の約100カ国・地域でも公開されるとのこと、海外にも多く存在するゴジラやエヴァのファンが注目する中、日本向けに特化して作られた内容が果たしてどれだけ受け入れられるのか、「シン・ゴジラ」のこれからに大いに期待したい。


※1:Twitterデータ取得量は全体の流通量の1/10程度 をサンプリングして集計。
※2:Twitterのプロフィール情報を優先して判定。また性 別については文章から男性語、女性語を判別し、記事単位 で男女を判定。
※3:平成ゴジラシリーズは、1984年12月「ゴジラ」  ~1995年12月「ゴジラvsデストロイア」を、ミレニ アムシリーズは、1999年12月「ゴジラ2000 ミレ ニアム」~2004年12月「ゴジラ FINAL WARS」を 指す呼称。


求宮  凛  (もとみや  りん)
キャラクタービジネス評論家(広告会社勤務)

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