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購入後学習というマーケティング デジタル一眼レフ奮闘記

写真なんてスマホでしか撮ったこともないのに、なぜかデジタル一眼レフを購入してしまった。

友人にプロのカメラマン(T氏)がいて、ブラジルやパタゴニアの素晴らしい作品に触れる機会が多かったのは、とても理由にならず、単に勢いとしか言いようがない。ちゃんとしたカメラが欲しいね、と夫と話したこともあるが、それも「ちゃんとしたカメラ」とはどんなものかも良くわかっていなかった。


それでも買う前にはT氏に相談し、素人でも扱えるカメラについて指南を受けた。曰く、カメラは露出とシャッタースピードだから、それが別々に調整できるものがよい、と。レンズは50㎜-250㎜くらいの幅があれば、最初は十分、と聞き、家電量販店に見に行った。お勧めの機種はニコンとキャノンのアマチュアハイレベル用のものだったが、持ってみるとずいぶん重い。これまた素人丸出しで、T氏に「重いのは手が疲れない?」と聞いたら、「重い方がかえってブレない」と言われ、最終的に店員さんの「バリアングルモニターは便利ですよ、、、」など様々な売り言葉を一応聞いて(バリアングルモニターがどう便利なのかは理解に至らなかったものの)、CANON EOS70D、ダブルズームキットという18㎜-55㎜と55㎜-250㎜の2本のズームレンズがついているものを購入した。


店頭でははっきり言って、レンズの種類と重さ、そして価格程度しか気にしていなかったが、いざ家で本体、そう、カメラの後ろ側操作面を見て、「これは無理」と思った。
なんとなく触っているうちに使えるようになるガジェットの類とは全く違うものであり、自分でパッと出来たことといえば、バッテリーを充電することと、カメラ本体にストラップを付けることくらいという情けなさであった。


取説を見ても「良くわからない」というしかない状態に陥った我々夫婦は、カメラの箱に同梱されていたパンフレットを見つけた。それは‘EOS学園に行こう!?50名以上のプロ写真家や経験豊かなスタッフが、やさしくレッスン!! ~’という見出しの、キャノンユーザー向けカメラ教室の案内だった。その時は「カメラ買わせて、有料スクールに誘導するなんて、商魂たくましいよね」と言って、そんなメーカーの手には乗らない、とばかりに脇に置いたのであった。


とはいえせっかく買ったのだから、マニュアルで色々撮ってみたい。まずは夫が「この一冊でプロ並み写真が撮影できます!」という当該機種専用のガイド本を購入してきた。撮影モードを一通り理解したつもりになり、練習ということで、家の近所の公園に出かけ、スマホに毛が生えた程度の写真は取れたような気持ちになった。


次に、北海道旅行に出かけ、ネイチャーガイド兼カメラマンの方に、一日リスとか白鳥、北海道の自然を取りながら、露出補正の便利機能などを教えてもらった。しかしそのガイドの方のカメラはニコンであり、キャノン機の使い方をしっかり教えてもらうまでには至らず、しばらく日が経つと、教えてもらった便利機能すら忘れてしまったのである。


結局独学では所詮無理な世界であること、そして旅行の最中に一日教えてもらうくらいでも限界があることを「学び」、やはりメーカーのスクールに入って基礎から学習するか、あるいはカメラは買ったものの宝の持ち腐れにするかの選択を余儀なくされたのである。


一度はさっさとカメラの箱に放り込んだEOS学園のパンフレットを改めて取り出してみた。ステップを追ってレベルアップを図るよう、体系化されたプログラム構成となっている。もちろん私のような初心者向けは、EOS使い方講座1回約5000円を受けることになるのだが、よりハイレベルな写真表現を目指すベテラン向きのゼミナールも用意されている。これは、6回から8回にわたって実習と自身の作品添削を繰り返すもので、受講料も35000円から44000円という、深いコミットメントが必要なものである。


なるほど、入門編の使い方講座はメーカー主催のスクールなので、写真撮影の基礎をキャノン機の使い方をベースに教えてくれる。しかも、EOSといっても様々な機種があり、機能も操作も異なるが、この入門編は機種別の講座となっており、自分が購入した機種に合わせた使い方を学べるようになっていた。結果、カメラは語学と一緒であり、アルファベットも読めないのにいきなり言葉は話せないのと同様、カメラの基本的なメカニズムがわからないのに、‘上達する’など無理な話であることが今更ながら身に染みた。また、独学では限界があることも。


スクールの成果はどうだったのか。少し使い方がわかって感じたことはなんと、「やっぱりもっとダイナミックな写真を撮るには、もっと長いレンズが要るよねであった。
カメラを買う→学ぶ→レンズを買い足す→学ぶ・他人に見せる・他人の写真を見る→アクセサリ(外付けフラッシュなど)が欲しくなる→学ぶ→・・・。


学ぶほどに周辺機器が欲しくなるように出来ていること、周辺機器を使いこなすためにまた学ぶ必要があること。LTV(ライフタイムバリュー)を高めるのに、これほど適した商材は無く、初回投資が結構大きいだけに、一度買ってしまうとこの‘学んで買い足すループ’に入らざるを得ないことを、くやしいかな、ユーザーの立場から痛感したのであった。

 

松風  里栄子  (しょうふう  りえこ)
㈱センシングアジア  代表取締役
博報堂コーポレートデザイン部部長、その後博報堂コンサルティング執行役員、エグゼクティブマネジャーを経て、2014 年、アジアへの海外進出支援を行う、センシングアジア創業。海外市場参入時の事業戦略・事業計画・マーケティング戦略と実行支援、コーポレートブランド戦略、CMO、マーケティング組織改革、M&A、ターンアラウンドにおけるブランド・事業戦略構築、新規事業開発で多くのコンサルティング実績を持つ。

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