毎日使いたいものを作る SHIROの挑戦

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2020年3月号『美しき開拓者』に記載された内容です。)


驚異の平均成長率149%(過去3年間)

「SHIRO(シロ)」は、自然由来の素材にこだわった化粧品ブランドである。がごめ昆布や酒かす、生姜などの素材を使った化粧品で、エシカルというだけでなく効果も実感できると、20代、30代を中心にファンが多い。

過去3年間の平均成長率が149%という驚異的なスピードで成長を続けている。ブランド設立から10年で社員数が約10倍の300人を突破し、現在は直営店の国内26店舗、海外4店舗(英国・ロンドン3店舗&EC、米国・ニューヨーク1店舗)とECサイトで展開している。


創業は土産物の食品・雑貨の製造会社、その後、OEMメーカーを経て、前進ブランド「LAUREL(ローレル)」をスタート。2015年にはブランド名を新たに「shiro(シロ)」として創業の地である北海道・砂川にカフェを併設した路面旗艦店の1号店をオープンしたころから快進撃が始まる。


想像を超えたリブランディングの反響

そんな好調なSHIROであるが、昨年でブランド設立10周年を迎えたのを契機に小文字から大文字表記の「SHIRO」へとロゴを変えると共に、ブランドカラー、パッケージデザインなども一新した。


そのリブランディングの際にはSNSなどでの反響が大きかった。肯定的な意見はもちろん、ブランドの変化に対し戸惑いから否定的な意見も目立ち、それに応え、運営会社のシロは謝罪文を発表した。様々な意見を覚悟してのリニューアル、謝る必要は一見ないように感じる。


マーケティング部門課長を務める梅津和佳奈さんに話を聞くと「ブランドが変わる、変わったということに対してご案内が少なかったことも一因だと感じています。今後は、よりブランドを理解していただくために、お客様の少しの声に、もっと寄り添っていくことに力を入れていこうと思っています」。


SNSでの声にも真摯に耳を傾ける、こうした誠意がお客様に愛される秘訣ではないだろうか。リブランディング後の店頭の反応はというと「店頭の反応も変わるのではと感じていましたが、ありがたいことに、変わらず沢山のお客様にご来店いただいており、ヒット製品である、タマヌシリーズやリップアイテムなどは特に伸び続けています」。ショップには、変わらず常にお客様が溢れ、確かにリニューアル前には見かけなかった新たな客層も増えている印象を受ける。



変化に柔軟であること

創業時からの2度にわたる業態転換に加え、お客様に親しまれているブランド名やロゴの変更などを行うことに、社内から反対の声は起こらなかったのだろうか。


LAURELブランド設立以前からのスタッフである梅津さんに尋ねると「今回のブランド名やロゴ変更などに限らず、これまでも、変化していくことでブランドが成長してきたという感覚があります。代表である今井は、常に意志のある選択を続けてきましたが、変えるという決断力の速さと実行に移すに至るスピードがとにかく早いですね。


それに対して、私たちはできるかできないかではなく、常にそれを実現する方法を考えます。ブランドや会社が進化するために、自分たちにできることを考えるということが何より楽しいですね」と語る。


スピード感を失わない秘訣

しかし、そうはいってもスタッフが約300人にも増えると社内でのスピード感は変化し、コミュニケーションが難しくなるものである。そこでLINE WORKSを中心とした社内コミュニケーションを活用している。


これには社内平均年齢が29歳というのも大きく影響しているかもしれない。LINE WORKS内では、本社発信の情報としてメディアの掲載情報が全てストックされ、掲載媒体を見てご来店されたお客様にも的確なご案内ができる。また、全国・海外の店舗にスピーディーに情報を伝えることができるため、リアルタイムで状況把握が可能となる。


さらに有益なのが社員に限らず、派遣でもアルバイトでも投稿可能で、情報交換先として自発的なコミュニケーションが生まれているそうである。例えば、店舗スタッフ間では、お客様におすすめしたら喜んでいただけた例や販売トークなど接客に役立つ情報が共有されている。


公式に本部から発信するのではなく、スタッフ自らシェアしていくことで主体的にブランドに関わることができる。投稿には他の店舗スタッフがコメントをすることも可能で、美容部員の勉強会などでやり取りされる有益な情報を、日本だけではなくロンドン、ニューヨークでも気軽にリアルタイムにシェアできている。


投稿内容から本社スタッフもお客様に伝わりやすい表現などを読み解き、それなら、こういう販促物が有効だとさらに発展していく。また、情報交換に留まらず、スタッフが感じていることや考えてことを理解しやすくなり、開発に興味があるのか、店頭が好きなのかなど、一人ひとりに合った配属先を決めるなど人事にも活用できる。本社と店舗間で物理的に距離が遠くなる時に、デジタルのコミュニケーションツールを有効利用して良い循環を生んでいる。


リアルとデジタル両面でのお客様との接点を増やす

社員の平均年齢が若いことは、リアルとデジタル両面の施策、さらに、店舗の開発における柔軟な発想にも影響している。リアルで行われたのは、ブランド設立10周年を記念して表参道で行われた、初めてのお客様向けイベントであるスタンプラリー。


ブランドのファンだけでなく、初めてブランドに触れる方が一緒になって、表参道を散策しながら楽しむ様子が垣間見られた。最近では、インスタライブでの情報発信にも積極的に取り組んでいる。


インスタライブでは毎回、予想以上に視聴者から沢山の質問がくるという。会社の規模やブランドが大きくなっても、そういった小さなお客様の声に真摯に耳を傾ける姿勢は、ますますファンを獲得していくだろう。


スマートフォンを駆使した新感覚デジタルストア

リアル店舗では、新たな取り組みも始めた。「製品の説明が聞きたいけれど、混雑していて接客が受けられない」、「自分でじっくりと選んでから製品を購入したい」というお客様の声に応えたいという想いから、対面接客なしで製品を選べるデジタルストア「SHIRO SELF」を、通常店舗と併設して3月4日にオープンした。


接客の順番待ちをすることなく、お手持ちのスマートフォンなどのデバイスで製品選びから購入までをスムーズに行うことができる、新しいシステムを通常店舗に併設する形で導入することで、接客を受けながら製品を選びたいお客様と、自分でじっくり製品を選んで、よりスムーズに購入をしたいお客様、両方のニーズを満たす提案である。


パッケージレスへの取り組み

環境に配慮した新たな販売方法も提案する。パッケージ付きの製品に関しては、「SHIRO SELF」ではパッケージレスを選択でき、通常販売価格から3%引きで購入できる。


ショッパーはお客様の要望がある時のみ渡すなど、コスメ業界が抱える過剰包装問題にも積極的に取り組む。ショッパーを減らすなどしてゴミの削減を図るブランドは増えてきたが、百貨店などで展開するコスメブランドでは、パッケージレスの製品はまだあまり見かけない。人の幸せはもちろん、環境にも配慮するSHIROの今後の活躍にますます期待したい。

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吉田  けえな (よしだ  けえな)
フリーランスのファッションコーディネイター&マーケティングディレクター
商業施設のプランニングアドバイスやポップアップショップの企画立案、デザインイベントやカンファレンスの運営など多岐にわたり、活動中。

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