美意識とは、「矛盾を受け入れ、それでも前に進み続ける」 そんな心の在り方かも知れない

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2020年1月号『美意識』に記載された内容です。)


「持続可能な」とは?

先日立ち寄った書店では、ブームの如く、「SDGs」に関連する本がたくさん並んでいました。「SDGs」とは、“Sustainable Development Goals”の略で、日本語では「持続可能な開発目標」と一般的に訳されています。「SDGs」は、経営学を学ぶ学生にとっても、向き合わなければならないテーマであることから、専修大学経営学部の講義でもディスカッションのテーマとして取り上げています。

社会人にはお馴染み(?)の“Sustainable”、「持続可能な」という言葉ですが、学生には、なかなか馴染みがないようなので、何かいい説明が出来ないものかと調べていたところ、「三省堂 辞書ウェブ編集部による ことばの壺」の「続10分でわかるカタカナ語」の中に「サステナブル」の説明を見つけました。


「持続可能な」とは、「そのやり方が将来も継続できる」ことを意味し、そもそも、この言葉が注目されたきっかけは1987年に国連の「環境と開発に関する世界委員会(通称、ブルントラント委員会)」で「持続可能な開発」の概念を中核に据える提言が行われたことにあります。


以後「サステナブル」という言葉は「環境」や「社会的課題」と深く結びつけて使われるようになり、「『持続可能性』と『開発』は両立できる」という考え方や「『環境保全』と『社会の発展』は両立できる」という考え方へと繋がって行くことになります。


「SDGs」とは、二律背反的な矛盾にどのように向き合って行くのか、という我々1人1人の心の在り方や姿勢が求められており、「『将来世代』と『現役世代』の利益は両立できるのか?」や、「『社会課題の解決』」と『企業価値の向上』」は両立できるのか?」という現代の課題にも繋がっていきます。こうしたことから、「持続可能な」とは、この先、ずっと続けていくために、「矛盾と向き合うことである」私はそのように理解しました。


人生とは?

そもそも人は、多くの矛盾を抱えて生きています。究極の矛盾は、「出来るだけ長く生きたい、と思いながら、1日1日、最期(その時)に向けたカウントダウンが確実に進んでいること」かも知れません。


これは、「死生観」とも言えるものかも知れませんが、日本人の内面にある「趣」や「もののあわれ」などの無常観は、まさにこの「矛盾と向き合う姿勢」そのものの様にも思えます。「人生100年時代」と言われますが、私自身はその半ばを過ぎたあたり(2年前)から、残りの人生をどのように生きるのか、を自然と意識するようになりました。


私と同世代の企業人であれば、定年後の生き方を考えるようになったり、子どもが社会人として巣立った後、夫婦の時間をどのように過ごすのかなど、知らず知らずのうちにこの先(=残された時間)の過ごし方を考える機会が増えているのではないでしょうか?


2019年度のマーケティングホライズン6号で「バトンを託す~次世代の若者に“出番”をつくる」というテーマを設定したのも、私自身がこの先を意識し始めたことの表れだったのだと、今回「美意識」というテーマをいただき、再認識することが出来ました。


矛盾を受け入れ、前に進もう

「この先」はまだしも、「残された時間」などと書くと、なんとなく、この先、枯れていくイメージや、守りに入るような印象を持たれるかも知れません。しかし、こうした自然の摂理にも出来る限り抗って生きて行きたい、そんな矛盾したことを、むしろ最近になって強く感じています。


新しいことを学びたい、これまで出来なかったことを経験したい、無謀だと思えることにも機会があれば挑戦したい、そのような前向きな気持ちは、確実に若い時以上だと思います。


そんな前向きな気持ちになれたのは、「出来るだけ長く生きたいと思いながら、1日1日、最期(その時)に向けたカウントダウンが確実に進んでいる」という若い頃には思いもしなかった究極の矛盾に自らが気づき、それを受け入れることが出来たからこそ、なのかも知れません。


究極の矛盾を受け入れ、自分自身のこの先の人生を自らの意思で、肩書きに縛られることがなくロックに生きていく、そんな「人生100年時代」のロールモデルになるべき人たちが、次世代を担う若者の模範となり、それぞれの人生の輝きを放ち続けることが出来れば、この国の未来も、まだまだ捨てたものではないはずです。


美意識とは、「矛盾を受け入れ、それでも前に進み続ける」、そんな心の在り方なのかも知れません。




見山 謙一郎(みやま けんいちろう)
株式会社フィールド・デザイン・ネットワークス 代表取締役、専修大学経営学部特任教授
環境省・中央環境審議会(循環型社会部会)委員や上場企業の新事業創造研修の企画、推進およびアクセラレーターをつとめるなど、産学官民を和えながら、アントレプレナー教育とイノベーションの創出、実装支援に従事。バングラデシュとの縁も深く、現地財界とのネットワークをベースに、これまで多くの日本企業の進出支援を行っている。

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