ビオトープ型ブランディングで、世界に笑顔と平和を

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2019年4月号『外食2.0』に記載された内容です。)


世界が注目するベトナムのピザレストラン

「都会でオーガニックの野菜と魚を循環させながら育てる」「エンジニアのスペシャリストが在籍し、自社のアプリを社内で開発している」「お店の建築によって美しい都市の姿を蘇らせる」「オリジナルの音楽を地元のクリエイターと共に制作し、お店で流す」…


そんな話を聞いて、一体何を提供しているお店なのだろうか? と、まったく見当がつかない方がほとんどであろう。それがベトナムのピザ屋さんと聞けば、なおさら頭の中は「???」だ。


今回取り上げるPizza4P’s(ピッツァフォーピース)は、2011年に日本人夫妻がベトナムのホーチミンで始めた窯焼きのピザと自家製のチーズにこだわったレストラン。


150坪越えの大型店舗は、ベトナム人70%、西洋人10%、日本人他20%と多様な人種で賑わい、平均単価は1200円ほど。メインの年齢層は30〜40歳、現在ホーチミン、ハノイ、ダナンなど12店舗にまで拡大し、さらに日本も含めた複数の新店舗を計画中の成長著しい人気店だ。


誰かにベトナムに行くことを伝えると、ベトナム料理のレストランではなく「Pizza4P’sに行った方がいいよ」と言われる、という現象が日本で巻き起こっていたり、NY TIMESやBBCがわざわざ取材に来たり、UK発の人気カルチャー誌「モノクル」が選ぶ世界のベストレストラン50にランクインなどと聞けば、同レストランが世界中から注目を集めていることが伺い知れる。いかにしてこのピザレスストランは、そこまで熱狂的な支持を得ることに成功しているのだろうか。


プラットフォームとしての飲食店
「私たちはもう、世界中には素晴らしい個性が溢れている事を知っています。これからは、集合の知恵の時代。より美味しいもの、よりよいサービスは、みんなで作っていった方が素晴らしいものになるはずです。


このレストランを『プラットフォーム』として捉え、そこにたくさんの個性が集まることで、より美味しいもの、より良いもの、より面白いものが生まれていく。そして、毎日がそういうもので溢れたら、世界はもっと平和になる」


こちらはオーナーの益子陽介氏が、2011年の設立時にしたためたコンセプト文を抜粋したもの。飲食店といえばシェフが手によりをかけて作った美味しい料理を、心地よい空間で楽しんでもらうことが一般的で、もちろんそれは素敵なアプローチだ。


しかしながらPizza4P’sは「自分たちが」というよりはむしろ、最初からさまざまな人が表現する「場」の提供を、レストランの可能性として捉えていた。


結果的にPizza4P’sは多種多様なお客さんで溢れ、ピザ職人やシェフ、チーズ職人、建築家、ITエンジニア、音楽家、コーヒー焙煎士やバリスタ、農家や農業の専門家など、あらゆる人々が熱い想いを持って表現する場となり、多層的で独自性の強いブランドを作り上げている。


お客さまに魅力をゆだねる懐の深さ
Pizza4P’sには「Make the World Smile for Peace」というフィロソフィー、「Delivering Wow , Sharing Happiness」というビジョンと、確固たるメッセージがある。


もちろんそれらはお店で食事をすれば、すぐさま実感できる。不思議なのは、そうした強いメッセージを受け取りながらも、お店が内包する多種多様な魅力に触れることで、「中心がない」という感覚を持つことだ。


ある人は「建築が素晴らしい」、ある人は「タブレット注文がユニークだ」、他にも「えっ、お店でミミズを飼ってコンポストにしているの⁈」「子供たちのワークショップも開催しているんだ」などと、価値を感じるポイントが驚くほど違っている。


つまり、誰しもが同じメッセージを受け取るのではなく、人によってまったく違う表情を楽しむことができるのだ。その様はさまざまな価値が蠢きながら、そして互いに作用しながら、独自の「ビオトープ=生態系」を生成しているかのよう。


通常であれば、顧客をセグメントしてそこに刺さるものは何かを考えて提供する、顧客との双方向のコミュニケーションを深めて同じような価値観を持つ人をコミュニティ化する、などが一般的。


しかしながらPizza4P’sは、設立当初からプラットフォームという概念で展開していることもあり、さまざまなジャンルの人々がいろいろな角度から魅力を受け取って、「素晴らしいお店」という事実を合意形成しているのである。


確かにお店を見渡すと、国籍もスタイルも問わず、ファミリーから国際的なビジネスマン、クリエイター、若いカップルや地元のおばちゃん、中には着替えをしてモデル写真を撮る女性まで(笑)、多種多様な人々の笑顔で溢れ、幸せな世界の縮図がそこには詰まっている。それはまさに地球と同じような生態系を連想させる。


企画ドリブンではなく「美味しさ」のあくなき追求
飲食店を運営することにおいてフィロソフィーやビジョン、企画が先行すると、人々の心に刺さりやすい反面、肝心な味がいまいち…なんていうことも珍しくはない。しかしながらPizza4P’sは、飲食店において当たり前の「美味しさの追求」に一切の妥協を許さない。


ピザ生地の材料の配合や発酵過程はセンサーなどのテクノロジーを活用しながら常にアップデートし、チーズは都市部から離れた高地ダラットにわざわざ工房を作り、日本人メンバーが張り付きでクオリティ管理を行なっている。


野菜は契約農家と密に話し合いながら育てているオーガニックのものを中心に使用。中には種から一緒に選定して開発した野菜もあるというから驚きだ。また日本の一流シェフを現地に招いて、一緒にメニュー開発をすることも。


さらに食後のコーヒーは、ベトナム産の豆を使いながら、自家焙煎にてスペシャルティの域にまで品質を高めることに成功するなど、すべてにおいて抜かりがない。


チーズの製造過程で出た廃棄するはずのホエーを発酵させて野菜の肥料に使う、ミミズを飼育しお店で出た廃棄物をコンポストにして畑に運んで使用するなど、環境に配慮したサステナブルなアプローチも、「美味しさ」を持続させるための施策として取り組んでいる点も見逃せない。


いかにして多面的な魅力を作り出すか
Pizza4P’sの設立の根底には、オーナーの益子夫妻が庭に自ら窯を作り、友人たちを招いてささやかなピザパーティを開いた時の「人々の笑顔や幸せな空気感」という原風景がある。


自分たちの心の源からストーリーを紡ぎ、その多幸感を世界中に広めるために、「美味しい」を追求したレストランを展開している。飲食店やビジネスを行うにあたり、もっとも重要だと思われる基本的なファクターがキチンと揃っている。


その上で、環境に配慮したサステナブルな取り組み、子供たちのエデュケーションや音楽、アートへのアプローチ、ベトナム人スタッフへの手厚い教育などのローカルへのリスペクト、ベトナムの都市環境に根ざした建築など、多層的にPizza4P’sというビオトープを作り上げているのだ。


このような展開について益子氏はこう語る。「僕はPizza4P’sを飲食店だとは思っていなく、総合芸術を作り上げたいという感覚でいます。


だから、一つひとつのパートが芸術の域まで高められていることが重要で、そのためにどの分野においても細部まで深く掘り下げていく必要があるんです。それらの表現を織り重ねていくことによって、一つの大きな作品が完成すると考えています」。


少し話は飛躍するが、産業革命以降のもの作りでは、効率性を追求してきたがゆえに分業化が進み、一つひとつのクオリティは格段に上がった反面、それらは点となり、横断的に見ることが難しくなっている。


益子氏のように物事を横断的に捉え、一つひとつを深く掘り下げながら、それらをギュッと束ね上げ、一つの大きなビオトープを作るような感覚こそ、これからのビジネスに必要不可欠な力となるのではないだろうか。


またそのようなアプローチによりPizza4P’sのようなビオトープを作れるとしたら、飲食店ならずともすべてのビジネスの可能性はどこまでも広がる。


新時代のビオトープ型ブランディングの活用で、地球上にもっと笑顔と平和が溢れれば、Pizza4P’sの理想の世界の実現はさらに加速するので、彼らにとっても願ったり叶ったりだ。ぜひ有効に活用し、「Make the World Smile for Peace」を実現する同志として、共に漕ぎ出してみてはいかがだろうか。

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国府田  淳  (こうだ  あつし)
Pizza4P’s日本支部ディレクター。同志社大学経済学部卒業後、ユナイテッドアローズやファッション誌Boonの編集、ITベンチャーを経て、2006年にWEB、メディア、デザインを総合的に制作及びプロデュースするRIDE MEDIA & DESIGN株式会社を設立。現在は同社のファウンダー&CEO、WEB&メディアのプロデュース、コミュニティ運営、投資、Forbes JAPANオフィシャルコラマーなど、職種に捉われないクリエイター・経営者として活動している。

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