フィジカルに繋がる、大陸型行動パターン

(こちらの記事は、マーケティングホライズン2019年2月号『ボーダレスミレニアル東南アジア流』に記載された内容です。)


ネット環境さえあれば、どこでも仕事が出来る時代とは言え、東南アジアミレニアル世代はフィジカルなコンタクトを大事にする。

その行動エリアは、ヨーロッパのそれと似て、国境を気にせず縦横に広がる。ベトナム、タイ、マレーシア、シンガポールを一月単位で行き来することも珍しくない。そんなクロスボーダーな企業の創業者に、彼のビジネススタイルを聞いた。


松風 会社について教えてください。なぜこの会社を創業したのですか。

Gilbert※1 私は大学卒業後、シンガポールの大手テレコム企業に就職し、経営管理の仕事に就きました。当時は花形コースと言えたのかもしれません。しかし、2度目に異動した部門で、ビジネスのペースが遅すぎること、加えて極めて官僚的で厳格な階層構造に幻滅しました。大会社の文脈に組み込まれるよりも、強い製品を作り上げ、そして社会に付加価値を提供できるような、イノベーションプロセスに関わりたいと思っていました。それが、会社を辞めるきっかけであり、AppLabx※2)と9cv9※3)を創業するモチベーションとなりました。前者は、素晴らしいデジタルプロダクトの構築に、後者は強力な技術人材の採用に注力し、この2社の活動を通してアジアの企業へ価値提供したいと考えています。
 AppLabxは、クリエイティブなグラフィックデザイン、グロースハッキング、デジタルマーケティングに注力しています。これらのサービスにより、クライアントに強力なブランディング、エンゲージメント、そしてリードジェネレーションを達成させてきました。
 9cv9では、シンガポール、マレーシア、タイ、香港、そしてヨーロッパの国々からのクライアントのために、ベトナムやインドネシアの一流ソフトウェア開発者やUX / UIデザイナーを採用したり、海外に派遣したりしています。これまでに、私たちは100社以上のクライアントと、アウトソーシングおよび派遣契約を結んでいます。私たちは、世界中の企業や新興企業のための技術チームを築くことを目指しています。
 これは特筆すべきことだと思うのですが、面白いことに、9cv9のようなビジネスモデルの存続と成功には資金が不可欠と言われてきました。私も資金を調達しようと思っていましたが、4年目を迎えようとしている現在、外部からの資金を1セントも調達すること無く、年間6桁の利益を達成しています。

松風 ベトナムを拠点にしていますが、アセアンを飛び回っていますよね。仕事のスタイルについてご紹介していただけますか。

Gilbert 本当に良く飛び回ります。典型的な月はシンガポール、マレーシア、そしてベトナム間を行ったり来たりします。 最近、事業が急速に成長し、インドネシアとタイにも拡大しました。 ですので、さらに以前より多くの時間を出張に費やしていると言えます。仕事のコミットメントを緩めることなく、また遅滞ないビジネス管理をすべく、常に(Wi-Fiまたはデータを通じて)オンラインになっており、Google SheetsやDocsなどのクラウドテクノロジーを最大限に活用して成果を上げています。

松風 一つの国に固執しないことが重要ですか。 また、それはどうしてですか。

Gilbert はい。私は、アセアンは近代的な経済ブームの頂点にあると考えています。途上国は先進国に追いつくために新時代の技術を採用し、かつてないペースで発展しています。例えば、VNGというベトナムのテクノロジー企業があります。これは、ゲームのようなデジタルコンテンツおよびソーシャルネットワーキング技術を専門とする企業ですが、マシーンラーニングを商品開発に採用して急成長を遂げています。VNGアプリのユーザーはアセアンだけでなく日本や韓国、アメリカにも広がっています。
 機会は地域のあらゆる隅々にまで溢れていて、技術革命を完全に経験する為には、そういった隅々を見なければなりません。こういったビジネス機会はインドネシア、ベトナム、カンボジア、タイのような発展途上国ではかなり似ていると言えるでしょう。 つまり、先進国の技術やビジネスのノウハウをどのようにローカライズできるか、というところに機会があります。一方、シンガポールのような先進国にとっては、発展途上国のニーズに適応するために、既存のソリューションをどのようにローカル適応できるのか、を考えるところに機会があります。

松風 起業家の観点から、ビジネスを始めるにあたりアセアンの環境をどのように見ていますか。

Gilbert この地域には多くの機会とリスクがありますが、どちらもビジネスを始めて革新的な製品を試してみるには良い条件です。考慮すべきいくつかの重要な問題の一つは、国々の間で異なる法制度と税制であり、これらの差異をナビゲートしてビジネスを実行する能力は、勝者と敗者を分けるための鍵となるでしょう。 今後数年間で、この地域でもっと大きなことが起こると感じます。

松風 さて、Gilbertさんは先ほど伺ったように各国を飛び回って仕事をされているわけですが、アセアンを移動するときの交通手段と、移動中はどのようにお過ごしですか。

Gilbert 沢山の乗り物を利用します。特にベトナム、タイのGrab、そしてインドネシアのGo-Jekです。国境を超える移動では、例えばマレーシアとシンガポール間はバスを利用します。常にオンラインであり続けることができるからです。例えばクアラルンプールとシンガポール間は5時間程度かかりますが、空港の往復や待ち時間だけでも結構時間をとりますので、バス移動が長すぎるとは感じません。車の中では通常Eメールを読んだり送信したり、会社の戦略を計画したりします。 国際線では、インターネットに接続できないため、通常ラップトップからオンラインブックを読みます。

松風 ベトナム、シンガポール、マレーシア、その他の国のミレニアル世代に違いはありますか。

Gilbert 同じアセアンでも先進国と発展途上国がありますが、その主な違いは飢餓感です。ベトナムのような発展途上国のミレニアル世代は学びたいという切実な願望を抱いており、シンガポールのような先進国で見られるテクノロジーインフラに追いつくために、新時代の技術を利用することに前向きです。
 逆に共通点はソーシャルメディアのヘビーユーザーであるということで、特にInstagramは日常生活で良く使います。
 私は、ミレニアル世代は先人たちから絶えず注目を集めているために、よりハングリーになっているのではないか、と思います。 例えば「Steve Jobs」氏のような起業家的なロールモデルが、有名な「Stay Hungry、Stay Foolish」というフレーズを発表する前は、成功のためにハングリーであるという考えは脚光を浴びていませんでした。

松風 最後に、将来の仕事の展望はいかがですか。

Gilbert 私の将来の仕事は非常に分散化され、移動性が高く、テクノロジーに大きく依存するようになるでしょう。
 つまり、これまで以上に頻繁に出張をくりかえすと思いますので、仕事のインプットとアウトプットのバランスを保ち、効率を高めるためにはテクノロジーが不可欠です。私がよく使うテクノロジーは、Google Sheets、Google Docs、Google Slidesなどです。
 また、事業拡大のためには、タスクと責任を他の人に委任することが重要です。権限委譲し分権化することは、周りの人々により大きな責任とより多くの仕事、そして自治の精神を与えることと同義です。私が目指すのは、そんな自治体が集まった組織です。


※1)Gilbert Neo氏は、デジタルグラフィックデザイン、デジタルマーケティングを主業務とするAppLabxを2016年に創業。シンガポール、マレーシア、ベトナムで事業展開。また、同時にオフショア開発と、コーディング教育の両輪でビジネス展開する9cv9を立ち上げた。

※2)AppLabxは24時間365日のカスタマーサービスできめ細かくクライアントに対応し、デジタルマーケティングのプロセスを一貫して、ROIをポジティブにすることでクライアントの信頼を勝ち得ている。

※3)9cv9は、ベトナムを拠点にオフショア開発を実行するが、その一方でコーディング教育事業を行い、リソースの確保という入り口と、オフショア開発プロジェクトの実行という出口を押さえるビジネスモデルである。

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